そもそもパブリシティ権とは?
パブリシティ権とは何か。消費者は、俳優の容姿や声優の声に魅力を感じる。それらが商品パッケージや広告に用いられれば、商品の選択に影響することがある。
氏名や肖像、声などがその人の人格に関わるものであると同時に、顧客吸引力という経済的価値を持つ。その顧客吸引力を排他的に利用する権利が、パブリシティ権である。
日本には、パブリシティ権を正面から規定する法律はない。パブリシティ権は、判例によって認められてきた権利だ。
契機となったのは、12年2月2日に言い渡された、いわゆる「ピンク・レディー事件」の最高裁判決である。人気アーティスト「ピンク・レディー」の2人が、週刊誌に無断で写真を掲載されたとして、損害賠償を求めた訴訟で、判決はパブリシティ権を人格権に由来する権利と位置付け、肖像などの使用が専らその顧客吸引力の利用を目的とする場合に、侵害が成立するという基準を示した。
この最高裁判決は、声が保護対象に含まれるかを明示していない。しかし、判決以後、知的財産権の専門家の間では、声も容姿と同様にパブリシティ権が認められるべきものだという考え方が一般的になっていった。
そして26年8月7日、法務省は「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」(以下「指針」)を公表した。「指針」は、現行法と判例法理に基づく解釈を整理し、声優の声についても、芸能人の肖像と同様にパブリシティ権の保護対象となり得るとの考え方を明らかにした。
声のパブリシティ権の保護は、生成AI時代にはとりわけ重要である。音声合成技術の発展により、「声優の声で読ませてみた」「歌手の声で歌わせてみた」という音声や動画を作成し、公開することが容易になったからだ。AIが生成した声の模倣コンテンツが、声優に無断で量産される状況を放置しておいてよいのか、という問題意識がある。
米国におけるパブリシティ権
米国に目を向けると、24年にテネシー州で成立したELVIS(エルヴィス)法がある。名称は、同州メンフィスを拠点としたロック歌手のエルヴィス・プレスリーを思わせるが、法律の正式名称の頭文字を取ったものだ。
テネシー州では、それ以前から法律によってパブリシティ権が保護されていた。エルヴィス法の特色は、保護対象である「声」に本人の実際の声だけでなく、その模倣も明示的に含めた点にある。さらに、特定の人物の声を生成することを主目的または主機能とするツールの提供についても、無断で行うことはパブリシティ権の侵害になるとした。
