2026年10月16日(金)

ビジネスと法律と経済成長と

2026年10月16日

 テネシー州は、ブルースとロックンロールの揺籃の地メンフィスや、カントリーの聖地として知られるナッシュビルを中心に、音楽産業の長い伝統がある土地だ。その伝統が、21世紀になって、実演家の保護を強化する法律の制定を後押ししたともいえる。

ナッシュビルはじめ、テネシー州は音楽の地として有名だ(Joe Hendrickson/gettyimages)

 米国では、エルヴィス法以前から、声を保護の対象とする州法や判例法が存在していた。カリフォルニア州やニューヨーク州の法律は、肖像と並んで声のパブリシティ権を保護している。

 もっとも両州の法律がもともと想定していたのは歌手や俳優の声の録音をそのまま広告などに利用するケースで、本人そっくりの声を合成する技術は立法当時、想定されていなかったと思われる。実際、歌手のベット・ミドラーが、自身の声をまねて歌う録音を無断で広告に利用されたとして訴えた88年の判決では、カリフォルニア州民法が保護する「声」のパブリシティ権には「声まね」は含まれない、という判断がされている(ただし、コモンロー上の保護は認めている)。

 近年は、州法レベルで、デジタルレプリカへの対応が進んでいる。カリフォルニア州民法には、24年、故人の声や容姿のデジタルレプリカを映像作品や録音物で無断利用する行為に対する規定が追加された。ニューヨーク州でも、20年、一定の故人の実演家のデジタルレプリカ利用についての規定が導入された。

 米国の制度は、州ごとに保護対象、利用態様、適用除外が異なるものの、生成AI時代への対応を進めている。

パブリシティ権の譲渡と相続

 声のパブリシティ権の財産的価値を考える上では、無断利用からの保護だけでなく、譲渡や相続ができることも重要である。著作権は譲渡が可能で、原則として著作者の死後70年間保護される。また、声優が個々の実演について有する著作隣接権のうち、財産的権利も原則として実演後70年間保護される。これらは、声そのものの顧客吸引力を保護するパブリシティ権とは別の権利である。

 一方、日本の判例は、パブリシティ権を人格権から派生した本人に固有の権利と位置付けている。譲渡や相続の可能性については、「指針」も、論者の間で一致した見解には至っていないと整理している。

 仮に相続が認められなければ、本人の死後、遺族はパブリシティ権に基づく経済的利益を得られないことになる。死後も保護が続く著作権と比べ、権利の経済的価値や取引の予測可能性に影響する問題である。

 また、譲渡の可否は、経済的価値だけでなく、実際に権利を行使する場面にも影響する。声優本人だけでなく、芸能事務所やライセンスを取り扱うエージェンシーなどが、無断利用への対応を担うことも考えられるからだ。

 「指針」では、譲渡できるかどうかは明確な結論がないとしつつ、独占的な利用許諾を受けた者による損害賠償請求や差止請求についても検討している。

財産的価値の向上で先行する米国

 この点は、米国と比較すると興味深い。米国には、死後のパブリシティ権を、譲渡・承継可能な財産権として明文化する州がある。

 ニューヨーク州では、20年の法改正により、一定の対象者について死後40年間の保護が設けられた。この改正を後押ししたのは全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)であった。彼らの主張は、例えばマリリン・モンローのような著名な俳優であっても、死後、その遺族がパブリシティ権を享受できなかったという問題意識に支えられていた(なお、この改正法は過去に遡って適用されないため、マリリン・モンロー(1962年没)のパブリシティ権は現在もニューヨーク州法では保護されない)。


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