――可士和さんでもそういう苦しみを体験されているんですね。そういう自分の案が聞き入れてもらえないときは、どのようにリカバリしていくのでしょうか?
うーん、リカバリというか、失敗と言えば失敗なのですが、まったくの無駄というわけでもありません。たとえばいったんはゴミ箱に入ったアイディアが、また何度も何度も打ち合わせを重ねるなかで戻ってきたりすることもあって。「実は僕、これを前から考えていたんですけど…」と切り出したら、「なんで早く言わないんだよ!」と言われて(笑)。そういうことはいっぱいありましたね。
(ダイヤモンド社)
――最初の案が復帰することもあるんですね。
たくさんありますよ。打ち合わせというのはフランクな場であると思うので、物怖じせずに考えていることというのをどんどん口に出していったほうがよいと思います。もしその場の流れから外れていたとしても言った方がいい。それがきっかけで新しい議論の方向性が生まれる可能性もあるのですから。
考えていることはちゃんと思い残すことがないぐらいまで言わないと、結果的にはプロジェクトのためにならないし、自分もモヤモヤしたまま、何となく不完全燃焼になるんですね。そうすると、パフォーマンスが落ちる。引っかかったまま作業が始まると、モヤモヤしますよね。それはもう、ハンドブレーキを引いたまま走ってしまうようなもの。パフォーマンスが落ちるということは、チーム全体としてもよくないですよね。
理想はスッキリした状態で、納得してどんどんどんどん前に進めるというのが、いい仕事につながります。
――とはいえ、企業のトップなどと仕事をすると仮定したら、やっぱり無難な案を出そうと思ってしまいませんか?
それはないですね。違うかなと思っていてもとにかく言ってみるのが大事です。打ち合わせの流れがスタックしているときに、「いっそのこと、こういうのはどうですか」とあえて極論を言ったりすることもあります。そうすると「それはちょっと極端ですね」とか返されますが議論は前に進みます。
そうやって極論を言うとなぜその案がダメなんだろう、ということを考える機会になるので、一つの手段として有効だと思います。