ロイターは1月28日掲載のコラムで、原油安が資源国や資源企業に与えるマイナスの影響と、原油安のプラス影響が消費者や経済全体に行き渡るまでのタイムラグを説明したうえで、「今後、ガソリンや公共料金の値下がりによる恩恵が消費に回る可能性が高い」と指摘している。(――「コラム:蓄積された原油安の恩恵まもなく到来」)。一方で目下のところ、原油安は金融市場に巨額の損失を与え続けており、世界経済に大きな動揺をもたらしている。(――「NYダウ、200ドル近い大幅下落 原油安加速で」朝日新聞デジタル 2015年1月29日)
果たして、この原油安はいつまで続き、今後の世界経済にどのような影響を与えていくのだろうか。日本エネルギー経済研究所の永田安彦氏は、今回の原油安が起きた背景を以下のように読み解いている。
「サウジの原油生産量は80年の1027万/日(b/d)から85年には360万b/dに低下した。結果として非OPECは減産の恩恵を受けたが、サウジは市場シェアを失うかたちとなった。OPECの生産シェアも大幅に減少し、80年の41.3%から85年には27.6%にまで低下した。サウジアラビアが減産を見送り、シェア維持の方針を採ったのはこうした過去の歴史への反省に基づいている」(――「更なる原油安をも容認するサウジアラビアの真意」永田安彦・日本エネルギー経済研究所 中東研究センター副センター長)
永田氏は、さらにこう指摘する。「次回の定例総会は15年6月5日に予定されているが、OPECの盟主であるサウジが20ドルに下落してもOPECは減産しないと明言しており、油価が低水準で推移しても、6月以前に緊急総会が開催される可能性は低いだろう」。つまり、原油安は少なくともまだ4ヶ月は続くということだ。
ハーバード大学のマーチン・フェルドシュタイン教授は、昨年の11月にProject Syndicateのサイトで、「政府支出を石油からの利益に頼っているベネズエラ、イラン、ロシアなどが油価下落の大きな敗者となるだろう」(――「原油価格下落の敗者は誰か?」岡崎研究所)と指摘している。これらの国々は、今まさに原油安による経済苦境に見舞われている。ロシアについては、慶應義塾大学の廣瀬陽子准教授が記事で触れた部分を以下に抜粋する。
「原油価格が低下するにつれ、ロシアの通貨・ルーブルの下落も激しくなっていった。2014年12月に入り、ロシアも経済状況の深刻さを認めざるを得ない状況になり、1月2日には、ロシア経済発展相が2015年の国民総生産の成長率を、従来のプラス1.2%という見通しから、マイナス0.8%成長と大きく下方修正した(さらに、ロシア財務相は2015年の経済成長率をマイナス4%になる可能性がある見通しを示した)」(――「ロシアの経済危機はウクライナ問題がなくとも予想されていた」廣瀬陽子・慶應義塾大学総合政策学部准教授)
冒頭でも触れた通り、原油安は世界経済にとってプラスとマイナス両面の影響を与える。多くの国がプラスの恩恵を受けると見られている一方で、それらの国々にとっても、原油安そのものがマイナス材料となる可能性を国際金融評論家の倉都康行氏は以下のように指摘している。
「原油価格の下落は、エネルギー・コストの低下という世界経済へのプラス材料だが、今回は3つのマイナス材料に留意せねばならない。1つ目は、世界に広がるディスインフレ傾向をさらに加速させてデフレ懸念を強めかねないこと。2つ目は産油国の財政不安や米国新興エネルギー企業の財務不安が資本市場を動揺させる可能性があること。3つ目は、石油開発企業が設備投資計画を凍結し、経済成長にブレーキが掛かるおそれのあることだ。こうした状況が、低迷する世界経済の中で「独り勝ち」と言える米国への逆風となれば、日本にも影響が無いとは言えなくなる」(――「デフレに怯える世界経済 原油安にリスクあり」倉都康行・RPテック代表取締役、国際金融評論家)
原油価格の行方は、今後も楽観視することなく見守っていきたい。
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