待ち構える国税庁の「関門」
日本人が海外に長期滞在することを目的に設立されたロングステイ財団によると、過去のアンケート調査でみると、「ロングステイしてみたい国ではマレーシアが06年から13年まで首位を維持し続けている」という。2位はタイ、以下はハワイ、オーストラリアニュージーランドと続いている。
10年から格安航空(LCC)のエアアジアXが羽田発のクアラルンプール便を片道1~2万円という低運賃で毎日飛ばしている。
日本人のあこがれのロングステイの場所としてはハワイ、オーストラリアなどがあるが、物価が高く生活するのは相当の蓄えと収入がないと難しいのが現実で、定年でリタイヤしたサラリーマンが海外でロングステイを楽しめるのはアジア地区のマレーシアが最も可能性が高いというのが衆目の一致するところのようだ。
昨年から為替相場が大きく円安に振れたため、ロングステイするには不利だということからMM2Hビザ申請の数は一昨年ほどにはなっていない。しかし、円安が1㌦=120円程度にとどまっているのであれば、3%を超える金利水準が魅力なのは確かなようで、ビザを取得するために制約条件はあるが、世界的に異常なまでの超低金利が続いているいまの金融マーケットでは、マレーシアは運用対象としては選択肢の一つにはなるだろう。
この儲け話には最後に日本の国税庁の「関門」がある。長期滞在ビザを使って金利を稼ごうと思う人が日本の居住者のままで運用すると、日本に持ち帰った段階で、利子に対してほかの所得と合わせて総合課税が必要になる。金利に対する税率は所得によって違ってくるが、仮に20%を課税されたとすると、1年1000万円預けて付いた33万円の金利に対して20%の6万6000円を税金として取られる。実質的な金利収入は26万4000円となるが、これはあくまで為替の変動がないと仮定したうえでの計算だ。この結果をどうみるかは運用者によって見方が分かれるかもしれない。
実際に運用目的でビザを取得した人がどれほどの金額を運用しているかは分からないが、国税庁から金利に対する課税で問い合わせが来たという話は聞こえてこなかった。想像するに運用額は数千万円程度なのかもしれない。これが仮に数十億円単位での運用となると、国税庁も放置しておけなくなる。
そうでなくても日本の金利は先進国の中では最低水準にとどまっていることから、海外に資金を移動させるキャピタルフライトによる運用傾向が強まってきている。国税庁としては海外で運用すること自体の規制・取り締まりはできないものの、運用によって得られた金利に対しては税金逃れにならないように、5000万円以上を海外で運用する場合は毎年報告義務を課しており、監視の目を強化している。
この手の金融商品は資産運用雑誌などで推奨されて人気化してくると、当局は「一罰百戒」を込めて、見せしめ的に課税強化に乗り出す可能性がある。それだけに海外で取得したものは課税対象にはならないと思って運用していて、後から国税庁から追徴課税されることのないように、きちんと税金を払っておいたほうが後で気まずい思いをするよりは安心だろう。
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