対談

2015年4月8日

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環境負荷は経営負荷でもある

久松:それは重要な問題で、農薬については理論的な努力がなされて、農薬取締法も改正されました。適正量の幅は、ある意味で過剰なまでに厳しく決められているし、適正量を普及する組織も存在しています。

 でも「無農薬」はまったく別の考え方で広がってしまった。知り合いの農業普及指導員が「適正使用量を指導しなさいと言われる。その一方でゼロを指導しろとも言われる。この二つにはまったく整合性がない」と嘆いていました。でもゼロのほうが心理には強く響くんですよね。目的合理的なのはすべての農業者の使用量をトータルで抑制することで、効果的に使うことが減らすことになるようなあり方でしょう。コスト削減にもなるから経営合理的でもあるのに、消費者だけでなく生産者までもわかりやすさにつられて無意味に減らしてしまう。

 経営合理性と環境負荷という意味では、IPM(総合的病害虫管理)のような考え方もどんどん入ってきています。完璧な防除を目指さずに「この程度の虫食いなら実害がないからいい」というレベルの管理に留めることで、経営的にも環境的にも無理のないやり方が探られていますよね。わかっている人はどんどんそうやっている。30~40年前の有機農業の教科書とはまったく別の考え方で、すごいなと思いますね。間違った理念で続けてきたダメな農家が淘汰されていった結果でもあるのだと思います。

 経営合理性を考えられない人は、経営環境が悪くなれば生き残れない。環境負荷の高い人は経営コストも高くなるから、いつか淘汰される。だから、基本的には放っておけばいいと僕は思っています。農薬は「強い武器」で、あれば使いたくなるものだけど、そこに検証意識がないのは怠慢だと思います。逆に、有機農業をロジックの伴わない理念だけで長く実践している人たちの野菜も、すごくレベルが低い。どっちもいつか淘汰されていくのだろうけど、まだまだどちらも声が大きいのが業界的な問題なのかも知れませんね。あなたたちのゴールは何なの? と聞いてみたくなります。

※総合的病害虫管理(IPM:Integrated Pest Management):農薬による病害虫の撲滅や、過剰気味になりがちな薬剤の定期散布といった旧来の手法を脱し、農地とその周辺の環境や生物多様性も勘案しつつ、経済的にも無理のない範囲で利用しうるすべての技術を利用して、病害虫の被害を経済的な損害の起こるレベル以下に留める管理手法のこと。近年は文化財や博物館収蔵品の保護にもこの手法が応用されている。

第2回へ続く

久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は最新刊の『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

丸山康司(まるやま・やすし)
名古屋大学大学院環境学研究科教授。専門は環境社会学、環境倫理、科学技術社会論。環境保全に伴う利害の齟齬や合意形成に関する研究テーマに関わっている。最新の著書は『再生可能エネルギーの社会化 社会的受容から問いなおす』(有斐閣)、共著多数。

取材協力:オークビレッジ柏の葉
都市に暮らす人たちに「食と農」のつながりを実感できる場所を提供するというコンセプトのもと、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅の目の前という立地で、体験型貸農園とレストランを展開。農園ウエディングやカルチャー教室から企業研修まで、開催されるイベントは多岐にわたる。農園のすぐ横で季節感に富んだ食材を楽しめるバーベキューも好評。
http://www.ov-k.jp

◆編集部より:
4ページ「農薬や化学肥料の使用量を10分の1に減らす」は正しくは「農薬や化学肥料の使用量を10分の1減らす」でした。お詫びして訂正致します。該当箇所は修正済みです。(2015/04/09 12:20)

  
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