その際、中国にとってこのような反日宣伝戦を展開する主戦場の1つはアジア地域であることは言うまでもないが、もう1つの主戦場はやはりアメリカだ。アメリカにおいて日本の安倍政権の「歴史修正主義」に対する批判を広げ、日本に対する警戒心を煽り立てることができれば、アメリカの中国に対する警戒がその分和らぐという算段もあり、歴史問題で日本に対するアメリカの信頼を揺るがせることによって日米同盟に亀裂を生じさせることが出来れば、習政権にとってなおさら万々歳の結果であろう。
アメリカとアジア諸国からの反発をかわして自らの覇権戦略をより進めやすくするための「環境整備」として、歴史問題で日本を徹底的に叩くことはまさに習近平政権の既定戦術である。今年9月3日、中国政府は「抗日戦争勝利70周年」を記念して周辺国首脳を招いて北京で大規模な軍事パレードを開催する予定だが、各国首脳を巻き込んでのこの大々的な反日イベントの開催はまさに、習政権による「環境整備」の一貫であり、その総仕上げでもあろう。そして、その直後に予定されている習主席のアメリカ公式訪問は、彼はおそらく、9月3日の「反日の国際大盛会」の余勢をもってアメリカに乗り込み「歴史問題」を材料にして日本攻撃を一気に盛り上げる魂胆であろう。
安倍首相の米議会演説の効果
しかしここに来て、習政権のこの戦術が挫折してしまう可能性が出てきている。中国の進める反日宣伝戦が国際的に失敗に終わってしまう流れが、米議会での安倍首相の演説によって作り出されたからである。
今回の訪米に当たり、中国がアメリカを主戦場の1つとして挑んできた「歴史戦」にどう対処するか、安倍首相は最初から周到に用意していた痕跡がある。
ワシントンに入ってからの4月29日、安倍首相は第2次世界大戦で戦死したアメリカ兵を追悼する記念碑を訪れて黙とうした。報道によると、安倍首相は「パールハーバー」と刻まれたモニュメントの前で、しばらく身じろぎもせずたたずんでいたというが、こうした「身体言語」の発する意味はやがて、米議会での演説において明らかになったのである。
40分間にわたる演説の中盤に入り、安倍首相は案の定、この訪問の話を持ち出した。「先刻私は、第二次大戦メモリアルを訪れました。神殿を思わせる、静謐(せいひつ)な場所でした」と切り出してから、次のように静かに語った。
「一角にフリーダム・ウォールというものがあって、壁面には金色の、4000個を超す星が埋め込まれている。その星一つ、ひとつが、斃れた兵士100人分の命を表すと聞いたとき、私を戦慄が襲いました」
「金色の星は、自由を守った代償として、誇りのシンボルに違いありません。しかしそこには、さもなければ幸福な人生を送っただろうアメリカの若者の、痛み、悲しみが宿っている。家族への愛も」
「真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚海…、メモリアルに刻まれた戦場の名が心をよぎり、私はアメリカの若者の、失われた夢、未来を思いました」
「歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。私は深い悔悟を胸に、しばしその場に立って、黙祷を捧げました」
「親愛なる、友人の皆さん、日本国と、日本国民を代表し、先の戦争に斃れた米国の人々の魂に、深い一礼を捧げます。とこしえの、哀悼を捧げます」