西欧と違い、東アジアにはかつての敵国同士を結ぶNATOやEUのような仕組みがない。東アジアは、富裕国と貧困国、民主国家と専制国家が混在し、共通の価値観を欠き、不安定で分裂し易い。一党独裁の大国、中国が、歴史的被害者を標榜してその是正を求めれば、アジア諸国が動揺するのは当然である。
中国が過去ではなく、現在の建設的行動に基づいて地域の主導権を主張してくれたら、どれほど良いことか。習が地域に安定をもたらすべく多国間主義をとるのなら、彼は真に歴史の教訓を学んだことになる。歴史は繰り返すのではなく、学ぶべきものだ、と論じています。
出典:‘Xi’s history lessons’(Economist, August 15-21, 2015)
http://www.economist.com/news/leaders/21660977-communist-party-plundering-history-justify-its-present-day-ambitions-xis-history
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これは、日本人から見ると全く納得できる議論です。これに対し、中国人の歴史に対する見方はどうでしょうか。例えば『中国の歴史認識はどう作られたのか』(ワン・ジョン著)は、共産党の統治の正当化の必要のために、歴史が大きく塗り替えられることを指摘しています。中国共産党の歴史の記述は、毛沢東の「勝者の物語」から、天安門事件を経て「被害者としての物語」に大きく変わりました。そして「中華の復興」がもう一つの柱として加わり、愛国主義教育の形をとって、被害者の側面が強調されました。イデオロギーとしての共産主義が消え、ナショナリズムがそれに取って代わりました。胡錦濤もこの路線を全面的に推し進めました。
ナショナリズムは対外強硬姿勢を生み出し、対日強硬論を助長します。ところが、対外強硬姿勢は、中国外交と中国経済の運営をさらに難しくしました。反日は結局、反政府の動きとなり、習近平は徐々に制限を加え、反日デモは原則、禁じられました。習近平は、もう一度、新たな「勝者の物語」への動きを始めた可能性があります。それは、新たなイデオロギーに向けての模索であり、それには歴史の「物語」が変わる必要があります。第三国の識者による公正な歴史認識の注入が、中国の国内的議論に積極的な影響を与える可能性が出てきたのかもしれません。日本の対外世論工作も、このような第三者の声を強化することに重点を置く必要が高まっていると言えるかもしれません。
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