これまでWedgeでは、クロマグロは危機的な資源状況にあり、現在の管理を続けていると、いずれ絶滅の危機に瀕すると繰り返し訴えてきた。
太平洋クロマグロは南西諸島沖と日本海の2カ所でしか産卵しないが、日本海では毎年産卵期に巻き網漁船によって、産卵前の卵を抱えたクロマグロが大量に漁獲される。日本海における巻き網漁船の拠点である鳥取県境港では、一本釣りで全国的に知られる青森県の大間1年分のクロマグロを、わずか1日で水揚げする能力をもつ。産卵期は多くのクロマグロが卵を産むため1カ所に集まってくるため、資源状態が悪くなっても獲りやすい。
水産庁の無責任と漁業者の悲鳴
日本海産卵場における漁獲規制を訴えた勝川俊雄氏の記事「絶滅危惧のクロマグロ 産卵場の漁獲規制を急げ」は、今年5月の参議院農林水産委員会で取り上げられ、本川一善水産庁長官(当時)は、「産卵場の漁業の影響はほとんどない」、「クロマグロは親が減っても子は減らない」等と主張(http:/
また、クロマグロを巡っては、全国各地の漁業者が悲鳴をあげており、一部では深刻な対立も発生している。今年6月に、対馬の沿岸漁業者が、入港してきた巻き網漁船を102隻で取り囲むという事態が発生した。巻き網漁船は、日本水産やマルハニチロなど、世界最大級の水産会社のグループ会社をはじめ、資本力のある企業が運営している。一方で、取り囲んだほうの沿岸漁業者は家族経営的な零細の漁師が多い。
対馬では「収入の9割がクロマグロという沿岸漁業者も多い」(対馬市曳縄漁業連絡協議会の梅野萬寿男会長)ため、クロマグロの資源量減少は生活に直結する。「魚が大量にいた時代は巻き網漁船が大量に漁獲しても誰も文句は言わなかった。ただ、今はそういう状況じゃない」(対馬の沿岸漁業者・宮﨑義則氏)。対馬と壱岐の沿岸漁業者は今年、産卵期(6~7月)における禁漁を決定した。「目の前に魚があれば獲る」習性をもつ漁師が自主的に禁漁を行うことは、異常事態と言える。
8月には、水産庁と産卵期に巻き網漁船でクロマグロを漁獲する共和水産の親会社・日本水産の本社に対して、釣り人らによるデモが行われた。デモには全国各地から90人ほどが参加。本業は水産業とは関係のない一般企業のサラリーマンが大半で、弁護士や医師、主婦も参加していた。「巻き網やめろー」、「産卵期のクロマグロを獲るなー」、「水産庁は資源管理をしっかりやれー」という前代未聞のシュプレヒコールが昼下がりの都心で鳴り響いていた。
産卵期に巻き網でクロマグロ漁を行う企業などで構成される鳥取県境港の山陰旋網漁業協同組合のインタビューを掲載したので、こちらも参照していただきたい。
いずれにせよ、クロマグロの資源状態が危機的な状況にあることは明白だ。残された時間は少ない。
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