天海祐希は宝塚歌劇団のトップスターから退団してから、20年を経た。「アラフォー」の代表的な女優も50歳が間近い。それなのにまったく年齢を感じさせない。「天下の美女」といわれた美貌に衰えはない。
日本テレビ・水曜ドラマ「偽装夫婦」は、主演の天海がけれんみのない安定した演技で魅せる。かわいいことが優先された女優の世界にあって、大人の天海のデビューは新鮮だった。
それは、日本の映画やドラマがしばらく忘れていた記憶だった。
図書館の司書・嘉門ヒロ役の天海は、独身を続けてきたが、大学時代に一度だけ恋をした陽村超治(沢村一樹)と結婚する。彼は幼稚園の園長代理である。
超治の母・華苗(富司純子)が、余命半年のガンにおかされている、と告白して、超治に自分が死ぬ前に結婚することを迫った末のことだった。
ところが、この病気話は実は超治を結婚させるための嘘であったことがわかってくる。
しかも、超治はゲイであった。宅配業者の青年である弟子丸保(工藤阿須加)に思いを寄せている。
天海が演じるヒロは、ほとんど感情を表に現わさない。心の叫びは、古い映画の字幕のように現れる。
「なにいってんだ。ババア」
図書館の本を汚しては返却する中年女性に対して。