次に、サンダース上院員議員の支持者の声をみていきましょう。
サンダース支持者の声
サンダース支持者には、特徴があります。第1に、彼らは、サンダース上院議員は本物であり、本音で語っていると主張します。第2に、同上院議員は中間層を気遣ってくれると述べます。第3に、クリントン候補がウォール街の大企業と関係が深く、しかもスーパーPACから献金を受けていると指摘するのです。
ウイリアム・ハネシー(69)
「サンダースを強く支持しています。彼は本物です」
バレリー・ドラグーン(59)
「サンダースに傾いています。ヒラリーには秘密を隠しているような印象を持っています。それに対して、サンダースには本心で語っているという印象があります」
リンダ・ケンワーシー(71)
「党員集会に出かけてサンダースを支持します。彼は誠実な人柄です。正直に語っています」
ジェームズ・ウォースター(35)
「ヒラリーは大企業と距離が近いです。彼女は、大企業や富裕層の操り人形です」
クリントン陣営が標的としているドナ・ドビンス(52) さんの家を訪ねると、庭にサンダース支持の看板が立っていました。彼女は不在でしたが、夫が対応してくれました。
「私も妻もバーニーを支持しています。私は消防士で組合に所属しています。忙しくてボランティアができないので、バーニーに120ドルの個人献金をしました。バーニーは中間層の世話をしてくれます。ヒラリーはワシントンでの経験が長く、中間層のことをあまり気にかけていません」
ジュリー・ブトウ(43)
「私はサンダースを支持しています。彼は普通の人ですが、ヒラリーは違います。サンダースは中小企業の味方です。ヒラリーは大企業の味方で、しかもワシントンの経験が長いです」
ブトウさんは、大企業から献金を受け、その見返りに彼らが抱えている課題を助けるクリントン候補よりも、普通の人のために働くサンダース上院議員を身近な存在だと感じていました。サンダース支持の別の白人男性も、クリントン候補と企業献金を結びつけ、サンダース上院議員は支援を受けていないので大企業から影響を受けないと回答していました。サンダース支持者は、クリントン候補がゴールドマン・サックスなどの大企業と密着しているというイメージを持っています。彼らにとってサンダース上院議員は中間層、クリントン候補は大企業の味方に見えるのです。
クリントン陣営の標的となっているカーク・ウィルキンソン(64)さんの家を訪問すると不在だったので、夫が対応をしてくれました。彼はサンダース支持者であると表明した後で、こう語ったのです。
「大企業から献金を受けているヒラリーは、まるで共和党候補のようです」
彼はクリントン候補とサンダース上院議員が発信しているメッセージの相違についても感想を述べました。
「ヒラリーのメッセージは意図的です。彼女はメッセージをコントロールしています。それに対してサンダースは自然です。彼は真実を語っています」
夫のウィルキンソンさんは、クリントン候補のコントロールされたメッセージに不快を示しているのです。筆者が、普通の人を気遣うのはクリントン候補かサンダース上院議員か尋ねてみると、彼は自信を持ってこう回答したのです。
「もちろんサンダースです」
クリントン候補の「普通の人のために戦う」「普通の人の擁護者になる」という核となるメッセージは、標的となっている有権者にまったく浸透していないのです。ただ、大抵のサンダース支持者は、サンダース上院議員が民主党候補者指名争いで敗れた場合、本選ではクリントン候補に投票すると語ります。
一方、共和党はトランプ候補ないし、テッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)が指名争いを勝ち抜いた場合、エスタブリッシュメント(主流派)の中には本選で投票に出向かない有権者が出てくる可能性があります。逆に、ルビオ上院議員のようなエスタブリッシュメントの候補が勝利を収めると、熱狂的なトランプ支持者の投票意欲を削ぐのは必至です。共和党内部における反エスタブリッシュメントとエスタブリッシュメントの分裂は深化しており、党の統一という一面をとってみると、民主党が有利であることは間違いありません。
一貫性VS.プラグマティック
以上に加えて、一般にサンダース上院議員は一貫性があるのに対して、クリントン候補はそれに欠けると言われています。ただ、これに関しては説明を要します。確かに、クリントン候補は立場を変えます。たとえば、国務長官在任中、環太平洋経済連携協定(TPP)に賛成の立場をとってきました。ところが、大統領選挙に出馬すると、曖昧な態度をとり、結局民主党の基盤である労働組合の票の獲得を優先したのか、反対の立場に変わりました。
クリントン候補のプラグマティック(実際的)な思考様式を理解することは、同候補の言動を把握するうえで極めて重要です。プラグマティックな人間は、自分が現時点でどちらの立場をとるのが有利なのかを常に模索しています。夫のクリントン候補(当時)もそうでした。選挙期間中、同候補は北米自由貿易協定(NAFTA)に反対し、その後賛成の立場に回り、大統領として協定に署名しました。同様に、クリントン候補もTPPに関して、立場を修正してくるでしょう。