Wedge REPORT

2016年9月15日

»著者プロフィール

日本のかつて歩んだ道をたどる韓国

 このプロジェクトとイムシル郡のトウガラシ栽培は一見、全く性格が異なるように思われるかもしれない。しかし、日本にも中国産トウガラシは韓国以上に入りこんでおり、国産は2%に過ぎない状況。つまり、安価な輸入ものという外圧があり、それに対してコストダウン以外の道で対処しようとしている点が共通しているのだ。

内藤とうがらしを使った加工品の数々

 イムシル郡が最も関心を持っているのが、いかに加工品を高値で販売し、農家の所得に還元するかということ。生産規模は少なくとも、加工品を百貨店で販売するまでになっている内藤とうがらしの存在が、その問題意識にぴたりと当てはまったのだ。

 特に視察団の関心を引いたのが、「根から葉、実まですべて売る。実も青色から赤色までトータルに売る」(成田さん)というプロジェクトの販売手法だ。「トウガラシの鉢を花屋で売れば、農産物として売る場合の何倍もの値段がつく。総合的な販売をし、多くの加工品をつくってブランドの価値を上げることが重要です」という成田さんの説明に、一行は熱心に耳を傾けていた。

トウガラシをふんだんに使ったメニュー

 新宿御苑内にあるレストランでは、トウガラシをだし代わりに使ったトウガラシご飯や、トウガラシソースのかかったアイスなど、内藤とうがらしをふんだんに使った昼食が提供された。中でもトウガラシを使ったお茶は、茎と葉の部分を活用しており、その工夫と味に賞賛が送られていた。成田さんがその場で、襟元に付けている鮮やかな赤色のブローチを指さして「トウガラシをコーティングして作ったこのブローチは、4000円という値段でも売れるんです」と話すと、会場からは驚きの声が上がっていた。

 午後には練馬区の栽培農家も訪れたが、トウガラシを作り続けて数十年というイムシル郡の農家らは畑自体にさほど関心を持たなかったようす。やはり販売上の工夫の方に刺激を受けたようで、イムシル農協のイ・ジェグン組合長は「栽培から販売、マーケティングまでしているのを見て驚いた。農業が厳しい中での工夫に感動した」と熱く語った。

 実はトウガラシはかつて日本でも盛んに栽培されていた。昭和30年代には生産量が7千トンにも達し、輸出もしていたほどだったのだ。しかし円高による輸出難と、手間がかかりすぎ人件費が賄えないという理由で生産は減少。今ではほとんどを中国とベトナムからの輸入に頼っている。韓国は今、日本から数十年遅れでこうした状況になりつつある。言葉を換えれば、ようやく日韓が課題を共有できる状況になったのだ。

 「イムシルは昔からトウガラシの町として有名だが、今回の視察で新宿のトウガラシの工夫に本当に感銘を受けた。将来、トウガラシを通じた交流を活発にして、共同で良いものが開発できるようにしたい」シン・ミン郡守は視察後こう語り、成田さんと固い握手を交わした。廉価な中国産という共通の壁を前に、日韓の産地が手をとりあう日が来るのかもしれない。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

 

関連記事

新着記事

»もっと見る