イタリアでは、太陽光発電の自家消費分に1kWh当たり5ユーロセント(5.6円)の課税が行われ、さらに300万ユーロ(3.4億円)以上の売り上げ、かつ30万ユーロ(3400万円)以上の収益を上げている再エネ事業者に対し10.5%の課税を導入した。ドイツはFIT制度を原則廃止した。
そんな中で、気前のよい買い取り額で制度を開始したのが、日本だった。特に、買い取り額が高く設定された太陽光発電事業は、爆発的勢いで広まっていった。予想外の設備導入量による買い取り額の負担増を懸念した政府は、制度と買い取り額の見直しを毎年行っているが、負担額は大きく増加し、電気料金にも大きな影響を与えている。図 - 6が買い取り負担額と電気料金の推移を示している。いま、産業用電気料金の10%以上はFITの買い取り負担額になっている。
原発の停止の影響により電気料金が上昇することは事前に予想できた。また、FITにより再エネが普及すれば、電気料金上昇が引き起こされることも当然予見できた。夢物語のような話を信じて、電気料金上昇による産業と生活への影響を考えずに、原発の停止と並行して制度を導入した政権の責任は大きい。
電気料金が引き起こす下流化
電気料金の上昇が製造業を初め産業の競争力に影響を与えることは容易に想像可能だ。電気を大量に使用する電気炉などを利用する業界では収益に大きな影響が生じ、倒産する企業も出ている。家庭生活でも電気料金の上昇は大きな影響を生じる。図‐7は、震災後の世帯所得金額と世帯が負担している電気料金年額の推移を示したものだ。
2014年の世帯所得金額の平均は542万円だが、60%以上の世帯はこの金額以下の所得しかない。上からも下からも50%になる真ん中の世帯の収入は427万円だ。世帯平均の可処分所得は420万円だ。世帯収入が伸び悩む中で電気料金は上昇している。1kWhの電気料金は震災後最大25%上昇したが、世帯平均の電気料金の負担額はそこまで上昇していない。単価の上昇を受けた節電が行われたのだろう。
それでも、2010年の世帯平均の負担額11万8000円は、2015年には13万3000円に上昇している。決して小さい額ではない。日本人の総下流化を防ぐためには電気料金のさらなる上昇は避けなければならない。再エネの導入量の増加はまだ続く。今は低迷している原油価格もやがて上昇に転じると予想されている。このままでは電気料金の上昇は続くことになるだろう。
安全性の確認された原発の再稼働により電気料金引き下げの目途を付けることがまず重要だ。産業にも生活にも大きな影響がある電気料金の上昇が続けば、1億総下流化は笑い話ではなくなる。
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