IoTを使ってPre-paid式レンタカーを実現するスタートアップ
次に、自動車ローンの切り口から見てみよう。ここで紹介したいのは、フィリピンでPre-paid式のレンタルサービスを提供するGlobal Mobility Service(以下GMS)である。なんと、日本の会社だ。フィリピンでは、自動車の保有は最高級品であり、多くがモータバイクである。人々の移動もモーターバイクにサイドカーをつけた三輪タクシーであるTricycle(トライシクル)や、ジプシーでの移動が主流だ。フィリピンでは、ローンを組めないため、モーターバイクさえ買えない層も多い。そうした日銭を稼ぐ層に対して、GMSはPre-paid式のレンタルサービスを展開している。
仕組みとしては、まずGMSまたはGMS提携ファイナンス会社がバイクとサイドカーを購入する。そして、彼らが持つユニークな技術であるIoTデバイスを備えつける。このIoTによって、自動車の移動を把握できるだけではなく、運転制御を遠隔で行うことができる点が強みだ。このIoT付きトライシクルを、日銭稼ぎをするドライバーに貸し出す。ドライバーは、いわゆる「TOP-UP」というデポジットをコンビニなどで行うと、1週間〜1ヶ月間自動車を操作することができる。8日目、または31日目に支払いをしなければ、備え付けられたデバイスが自動車のエンジンを制御し、動かなくなる。動かないと彼らは日銭稼ぎができないため、彼らは生活に困ってしまう、したがってきちんとTOP-UPをし続ける、というわけだ。トライシクルは、フィリピン国内で350万台あるというから、国内だけでもかなり大きなマーケットだ。
面白い点は、このIoTデバイスから、様々なデータを取得することができる点である。一人のドライバーが、どのルートでどれだけ稼ぎを出しているかもすべて把握できるため、新たな自動車ローンの与信モデルに組み込むことができそうだ。運転の仕方から事故率などのデータが仮にとれれば、保険ビジネスへの応用もできそうである。物理的に自動車の動きを制御してしまうというパワーから、ローンの支払いを促すことができる。結果的にこれは自動車の審査率を高める可能性を秘め、自動車流通をより活性化させることができる。
以上、今回の記事ではマーケットプレイスとローンのプレイヤーのトレンドをお伝えした。最後に、自動車大国である日本が、ことASEAN各国との相性が良く、特に日系プレイヤーが進出して成功する可能性が高いのではないか、という点を述べておきたい。どこの国に言っても、TOYOTA・HONDA・MITSUBISHIをはじめとした日本車は大人気である。丈夫で壊れないから、どんなに走っても価値が落ちにくい。自動車ローンや保険のビジネスには、総合商社や日本の金融機関がこぞって進出している。しかしながら、まだまだ自動車流通の根幹であるマーケットプレイスや信用情報の整備には課題が山積みである。ここに、GMSのような日本人がテクノロジーを持ってしてイノベーションを起こす日本人起業家がより多く現れることを期待したい。
※参考までに、より深く自動車流通の事情を知りたい方向けに、レスポンスで掲載している川崎大輔さんのASEAN流通大陸をご覧頂きたい。国別の最新情報がまとまっており、現地の状況をより深く理解することができる。
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