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2010年4月1日

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伊藤公紀 (いとう・きみのり)

横浜国立大学大学院工学研究院教授。1950年福岡県生まれ。78年、東京大学大学院工学研究科工業化学専攻卒業。著書に『地球温暖化論のウソとワナ』(KKベストセラーズ)など。

 その後、世界各地で採取された樹木の年輪試料や、グリーンランド等で採取された氷床コア試料の分析が進み、温度計がなかった時代の気温の代替値が報告されるようになった。これをまとめて、地球平均気温を算出したのがHS曲線のM・マンである。多代替指標法という彼の発想は良かった。しかしデータ処理の間違いで20世紀の気温急上昇という誤った結果を生んだ。

 第4次報告書では、HS曲線は他の曲線群に埋もれている(前頁の図C)。そして、中世温暖期・小氷河期がはっきり分かるデータも目立つ。最新の技術を使って報告された気温の代表的なデータ(前頁の図D)でも、中世温暖期・小氷河期は明確である。そして、20世紀の気温が特に異常ということはない。もちろん、これが最終というわけではないが、気候科学はHS曲線の呪縛から逃れつつあるのではないだろうか。

 しかし呪縛はまだある。それはここ数十年の温度計実測による「地球平均気温」である。まず、データ自身が怪しい。10年で0.1℃の変化を検出するなどという高度な測定には、厳密な管理が必要だが、実態はお粗末極まりないことが分かっている。例えば、全米で1200箇所ある気温測定サイトでは、大半の温度計が駐車場や建物の傍らに置かれ、温暖化の傾向が強く出てしまっている。

 しかも環境政策的には、このような平均値にはあまり意味がない。むしろ、地域・局所における大きな気候変動に対処しなければならない。例えば、今年の冬は北半球で大量の降雪があり、フロリダでは海獣のマナティが凍死したと報道されたが、衛星で測定されている地球平均気温はむしろ高めだった。CO2を減らせばこのような気候変動が減ると思っている人もあると思うが、決して減らない。それは、自然変動が大きく、また地域・局所ではCO2以外の人為的要因の影響が大きいからだ。

 自然変動としては、太陽・海・雲の変動が重要だが、よく分かっていない。前図の気温変動は太陽活動の変動とよく対応しているが、その原因は不明である。筆者は、太陽から飛来する磁場と北半球の気候を支配する北極振動との関係に注目している。

 人為的要因としては、地球規模の影響が分かってきたスス(着色エアロゾル)が重要である。インド・中国等での低質燃料の使用が原因となって発生するススは、大気循環に乗って近隣のヒマラヤはもちろん、北極域まで達する。降着したススは太陽光を吸って氷を融かす。北極域で最近観測されている2℃程度の気温上昇のうち、6割がススのためという報告もあるくらいだ。ちなみに、北極海の氷が激減した大きな理由は、風で吹き流されたことらしく、最近は回復しつつある。この他にも、土地利用や窒素化合物による富栄養化なども重要と言われている。

CO2削減の優先は危険

 地球気候システムはまだわからないことだらけであり、まさに研究途上である。IPCC報告書の結論は、良くて勇み足、悪く言えば恣意的だった。全てをCO2で説明し、政策に結び付けようとするのは、余りにも単純だった。その非現実性や危険性に世界が気付き始めている。

 環境政策は多様であるべきだ。それは現実が多様だからだ。多様な現実に単一の価値を適用するのは、経済学者・倫理学者A・センの言う「合理的な愚か者」であり、日本の25%削減目標は危険であると言わざるを得ない。

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