2024年12月11日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年2月6日

 1月8日付のワシントン・ポスト紙で、ロバート・サミュエルソン同紙コラムニストは、トランプが恫喝で雇用創出の努力をしているが、政治的には良くても、経済の大きな力には勝てない、と述べています。論旨は、次の通りです。

(iStock)

 トランプが恫喝の流儀を復活させた。この言葉は1960年代に流行った。大統領が国益と考えることを、脅迫等によって会社にやらせることを意味する。これこそトランプがやっていることである。まず、キャリアにメキシコに工場を移さないよう圧力をかけて800ないし1000の職を救った。次に、フォードにメキシコでの1600万ドルの工場建設を止めさせ、700の職を救ったとされる。最近ではGMとトヨタのメキシコでの生産に文句をいっている。すべて、良い政治かもしれないが、良い経済学ではない。

 トランプは労働者のために立ち上がり、選挙公約を果たしていると映るが、現実には、恫喝が多くの雇用を生むことはなく、もし自動車会社が競争上不利なコストを背負わされることとなれば米国の雇用は失われる。歴史はトランプの介入が巧く行かないことを示している。

 1960年代の目標は、失業を増やす金利引き上げに頼ることなくインフレを抑えることにあった。ジョンソン政権は、生産性向上によって、製品価格を上げることなく賃金の3%引き上げは可能だとした。ベツレヘム・スティールが製品価格の値上げをしたことに怒ったジョンソンは、同社の経営者を非愛国的だと糾弾し、撤回に追い込んだ。アルミの会社が値上げをした時、政府備蓄を放出して価格上昇を抑え込んだ。ジョンソンの介入は多岐にわたった。靴の価格が上がった時には革の供給を増やすために獣皮に輸出規制を課した。しかし、失敗だった。インフレ圧力が恫喝を圧倒した。消費者価格は1960年に1%の上昇だったのが1969年までに6%となり、1979年、1980年には13%に達した。

 ジョンソンの恫喝の教訓は政府は経済の強力な力を簡単には相殺できないことにある。それは今も真実である。製造業の雇用が大不況の前の水準に復することはないであろう。しかし、その主たる理由は輸入や工場の海外移転ではない。機械化が最も重要で、1990年以来、製造業の雇用は3分の1減った一方、生産は4分の3増加した。その他の要因には不況による破産や新技術の出現がある。ドル高も要因である。しかし、もっと大きな理由もある。会社は顧客の近くに位置する必要があり、そのために成長市場が存在する海外に出て行く。

 製造業だけで米国の雇用増大を支えることはできない。それは1億4500万の給与職のうち1200万、割合にして8%に過ぎない。1000人の労働者の工場1つの海外移転をトランプが毎週阻止したとすると、1年後には5万人となるが、それは1か月の平均的な雇用増の4分の1に過ぎない。

 工場の雇用は地元には重要だが、経済にとっての万能薬ではなく、保護主義や恫喝を正当化しない。愛国主義は良い政治だが、良い経済学とは限らない。

出 典:Robert J. Samuelson ‘Trump’s job ‘jawboning’ may be good politics — but it’s not good economics’ (Washington Post, January 8, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-job-jawboning-may-be-good-politics--but-its-not-good-economics/2017/01/08/a1496dc2-d44b-11e6-a783-cd3fa950f2fd_story.html?utm_term=.ae74f027cf2a


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