決断できない新聞社
メディア各社の動きをみてきたが、明白なのは新聞社のスマホへの対応が遅れていることだ。紙面作りとは全く異なる発想が求められるが、新聞のコンテンツをそのまま電子版に置き換えただけのもので、グラフや写真も新聞の時のままで、スマホ向けにデザインを見やすくするなどの工夫がみられず、読者層の分析も足りない。
新聞社は個別配達システムによっていまの新聞購読が支えられてきたため、販売店不要にもつながりかねない電子新聞の普及に本腰が入らない面がある。しかし、新聞業界の先行きをみると、人口減少、若者の新聞離れにより逆風が強まるのは確実だ。生き残るためには紙は残しつつも、デジタルで思い切った決断をするしかない。それができない新聞社のニュースコンテンツは数年後には世代交代とともに、新興メディアに取って代わられる可能性すらある。
しかし、IT関係の人材が少ない新聞社が短期間に最新のIT技術を身に着けるのは難しい面がある。ITに詳しい専門家は「新聞社はコンテンツの充実に努めるべきで、ニュースの送配信は専門のプラットフォーマーに任せるなど、『分業』した方がよい」と指摘する見方もある。
「輪転機よりスマホ人材」
新聞社勤務を経てネットサイトの運営も経験した藤代裕之・法政大学社会学部メディア社会学科准教授は新聞社の現状について「記事をデジタル化してパソコン向けの対応はできるようになったが、スマホへの対応は全くできていない。唯一できているのが日経で、スマホ専門のエンジニアを抱えて自社開発能力を備えている」とスマホ対応の遅れを指摘する。
「スマホの画面はパソコンと比べて全く違う。パソコンよりも素早く、小さな画面で読みやすいように見せるためには独自の技術とデザイン能力が求められる。輪転機の更新に巨額の設備投資をするよりは、スマホ向けコンテンツの開発ができる人材を雇うべきだ。そうしない限りLINEなどニュースを提供する新しいプレーヤーが次々と登場する中で、新聞社はスマホ時代に追いついていけない」と直言する。
また有料コンテンツが評価される流れについては「お金を払って見るコンテンツは無料の広告モデルと違うことが少しずつ理解されてきている。有料記事が良い記事を産み、良い記事が読者の支持を得られれば、読者とライターの関係が好循環となり、ジャーナリズムにとっても良い方向になる」と話し、有料コンテンツがさらに広がることを期待している。
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