まず、買収の筆頭会社に、シャープを前面に押し出すことにした。実際、シャープは3000億円程度を出資する。次に、アップルも出資する模様である。つまり、ホンハイはその背後に隠れ、黒子に徹することにした。日米が買収するなら問題ないだろうと考えたわけだ。
さらにソフトバンクの孫正義氏に、日本政府へのロビー活動を依頼しているという話も聞かれる。その上で米国に、新たにNAND工場を建設すると発表した。米政府、特にトランプ大統領にも、支援をしてもらうためだ。
通信半導体のファブレス、米ブロードコムも、米ファンドのシルバーレイク・パートナーズが前面に出て応札した。ブロードコムは、その背後に隠れた。そしてこの陣営は、ブロードコムの通信半導体と、東芝メモリのデータセンタ用SSD(NAND)との相乗効果をアピールしている。そして、2次入札の後、4兆円の買収額を用意したことが報道された。
革新機構、政策銀、経済産業省が参集する日本企業連合の陣営は応札しなかった。一口100億円とする日本企業連合が、富士通と富士フイルムの2社しか集まらなかったからだ。だが、経産省は引き続き日本企業を集めようとしている。また革新機構は、投資資金を確保するために、ルネサス株25%を売却し、約4000億円を確保する予定である。その上で、日本企業連合を10社以上集め、1.8兆円以上を確保できたら、応札する意向である。
すでに本コラムで指摘したように、この日の丸連合が買収すると東芝メモリの取締役会は烏合の衆となり、大胆な投資判断ができなくなる。その結果、メモリビジネスの息の根を止めてしまうだろう。頼むからこの陣営には引っ込んでいてほしい。
WDと東芝の争いは国際裁判へ
東芝メモリの売却をよりややこしくしているのが、東芝とWDのバトルである。両社は以下のような泥仕合を展開している。
WDは4月9日、東芝の取締役会宛に、当初の契約を盾にとって、「NAND事業の分社もその売却も契約違反」とする意見書を提出した。
東芝は5月3日、WDに対して「東芝側は売却する権利がある」と反論する書簡を送り、5月15日深夜までに入札に関する「妨害行為」を停止しなければ、四日市工場からWDの技術者を閉め出すと警告した。
WDは米国時間5月14日、東芝のNAND事業売却差し止めを求めて、国際商業会議所(ICC)の国際仲介裁判所に仲裁申立書を提出した。つまり、両社の争いは、とうとう国際裁判沙汰になってきたわけである。
これを受けて、東芝の綱川社長は5月15日の記者会見で、NAND事業売却について「契約違反ではない」「WDと決裂したわけではない」「(合意時期は)決まっていないが、できるだけ早くしたい」と述べた。そして5月16日には、「問題解決のために協議を継続しており、WDのアクセス制限の判断を保留した」と表明した。