規制をかけても地下に潜るだけ
上述の通り、「境外包車」は中国では人気のサービスだ。ところが日本では散発的な報道があるぐらいで一般的にほとんど知られていない。タクシー業界や空港、あるいは警察など監督官庁はこの問題を知っているのだろうか。取材を進めると驚くべき事実が浮かび上がった。
タクシーの業界団体、空港、警察、国土交通省と取材を進めても、知らぬ存ぜぬとの答えが返ってくるばかり。羽田空港を縄張りとしているタクシー運転手に話を聞くと、「えっ、そんな白タクがあるんですか」と目を白黒させた。成田空港は「顧客からの投書があったが、実態は承知していない」との答え。羽田空港国際線ターミナルでは「確認していない。我々のターミナルは狭く、そうしたサービスを行う余地などないのでは・・・」との回答があった。ほかならぬ問い合わせた私自身が先日利用したばかりなのだが。
現場は理解していなくともお上はわかっているはず、と警視庁、国土交通省に問い合わせてみたが、そうした実態は把握していないとの答えが返ってくるばかりだった。
中国の街中で宣伝されているようなサービスを日本の監督官庁は理解していないのか!? と驚いたが、よく考えてみると仕方のない話だ。なにせ境外包車と一般自家用車は外から見る限りなんの違いもない。「自家用車の送迎が少し増えましたね」と、まったく勘づかなくとも不思議ではない。
ただ、日本が観光立国を目指すならば、単に外国人を誘致するだけでなく、彼らの動向を把握し、ニーズをくみ取って、民泊のように必要なサービスについての規制を緩和していかなければならないだろう。皇包車のようなライドシェアに対するタクシー業界からの反発は必至だが、一律に禁止することは難しいのではないか。そもそも、禁止を続けてもその広がりを止めることはできない。
インバウンド評論家の中村正人氏は「日本がルールを仕切る側にならないと日本にお金は落ちてこない。しかし、行政にその姿勢が見られない」と嘆く。
税制に詳しい中央大学法科大学院の森信茂樹教授も「ライドシェアの規制が残っていることによって、結果的に皇包車のように地下に潜ってしまう。日本でビジネスを展開しているにもかかわらず、ドライバーや事業者の所得を把握し、課税をするような議論にはとてもたどり着けない」と指摘する。
このままでは訪日中国人の観光需要を、テクノロジーを使った中国人たちに奪われる一方だ。まずはサービスの実態を把握し、日本の事業者も公正な競争ができるように、観光政策と各種規制の折り合いをつけることが政府の喫緊の課題である。
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