2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月24日

 今回の国家安全保障戦略文書は、この社説が指摘するように、情勢認識において現実的です。中露を競争勢力と決めつけるほか、同盟国との協力を重視するなど、基本的なところでは歓迎できる面が多いです。こういう考え方が政策に反映されるのならば、安心できます。この文書はマクマスターを中心とする国家安全保障会議が起案したものでしょう。トランプがどれほど真剣にこの文書を吟味したかは分かりません。

 この社説も指摘するように、トランプの外交への対応は取引的であり、無原則です。米国の価値観を強調するこの戦略文書が出たからと言って、トランプ外交が価値重視で、原則重視になるとはとても思えません。

 同盟が米国の力を増大させるとの認識は、同盟重視であり、歓迎できます。しかし、実際の外交がどうなるか、依然としてよく分かりません。

 この国家安全保障戦略は基本的には良い文書ですが、これで米国の世界的影響力が回復するとは考えられません。厳しい言い方になりますが、トランプが大統領でいる限り、米国の世界での影響力は低下し続けるでしょう。

 「トランプ1年目の外交が過激な変化というより普通であった」とのウォール・ストリート・ジャーナル紙の評価にはあまり賛成できません。

 通商政策においては、米国はTPP、NAFTA、さらにはWTOを攻撃し、保護主義的な通商政策を標榜しています。自ら構築した戦後秩序を自ら壊しています。

 エルサレムをイスラエルの首都と認定しましたが、安保理でその撤回を求める決議が出され、孤立し、拒否権行使を余儀なくされました。さらに総会でも孤立しています。米国とアラブ諸国、イスラム教の諸国との関係を悪化させることになりました。中東和平での米国の影響力はかつてないほど低下しています。イランを「ならず者国家」と呼び、サウジに肩入れする政策が中東の安定に資するとも思えません。

 欧州でも、気候変動パリ協定離脱、プーチンへの甘い態度、ウクライナ支援へのあいまいな態度などを巡り、トランプ政権への批判は多いです。

 アジアにおいては、北朝鮮問題が最も重要な課題ですが、その行先はまだ不透明です。もっともこれはトランプのせいではありません。中国が競争勢力とされたことが北朝鮮問題での中国の協力にどう影響するか、今後見ていく必要があります。

 なお、この国家安全保障戦略文書について、ワシントン・ポスト紙は「トランプの国家安全保障戦略は全く戦略になっていない」と厳しく批判する社説を12月19日付けで掲載しています(‘Trump’s National Security Strategy isn’t much of a strategy at all’)。同社説は、国家安全保障会議が米国の外交利益とトランプの衝動を調整しようとした試みですが、それに成功していないとしています。

 日本は米大統領が誰であってもよい関係を求めざるを得ませんが、こういう立場でいることについて、反省する必要もあるように思われます。

  
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