オトナの教養 週末の一冊

2018年5月24日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

 この結果を見れば、やはり無縁社会になっていると思われるかもしれません。ただ、そもそも人間が維持できる関係性は少ないことに注意がいります。R.ダンバーは、人間が関係を維持できる他者の数は150名程度としています。有名なダンバー数です。しかし、彼の主張には続きがあり、この150人は、年に一回程度しか顔を合わせない他者も含めての数で、接触が多く、助けを求められるほど親密なのは5人、それよりも親密ではないが、助けを求められる関係を合わせると15人程度だとしています。一番親密な他者の数が5人程度ならば、頼れる人の数が10人に減っても大きな問題ではありません。

 結論としては、日本人が孤立してきているという証拠は得られませんでした。むしろ、変化は小さいと言えます。

 ただし、90年代と今回の調査対象は、満20歳から65歳の既婚の男性とその配偶者に限られていて、無縁のリスクが高い独身の方を対象にできていないのははがゆいところです。

――サポートしてくれる人の数は減っているが孤立、無縁化しているとは言い切れないと。逆に増えている社会関係もあるのでしょうか?

石黒:特に若い女性で、友人関係が増加していました。そして、娯楽でつながる友人関係が、劇的ではないですが増えていました。すでに過去の調査研究で、日本人は人間関係の選択可能性が高くなると、趣味が似た人を選ぶ傾向があることがわかっていますから、この20年間で、人間関係の選択可能性が増加したことの反映だと考えられます。

 ただ、血縁などと比べると、趣味でつながった関係が、何かトラブルが起きたときに、助けを求められる関係性かというと疑問が残ります。友人関係が娯楽的になることで、長期的にリスクが高まる可能性はあります。

――結果を見ての印象はどうでしたか?

石黒:あまり変化はないのではないかと内心思っていたのですが、ここまで変化していないとは思いませんでしたね。たとえば、親密な関係は、先行研究からも、もっと遠距離に拡散していると予想していました。90年代から00年代にかけて、日本人の移動性は高くなっています。たとえば大学進学率は倍増し、地元を離れて進学する人が増えた。さらに、スマートフォンやSNSといった道具で、近くの気の合わない人と付き合うより、地元の気の合う友人と簡単に連絡が取ることができる。こうした変化が、人間関係を地理的に拡散させると予想していたのですが、実質的に変化はありませんでした。

――それは意外ですね。その背景についてはどう考えていますか?

石黒:憶測になりますが、過去の研究を見るとスマホなどを用いた遠隔コミュニケーションだけでは人間は親密な関係を維持できないという可能性があります。

 たとえば、先ほどのダンバーの研究チームが、イギリスのある高校で、高校生の人間関係を調査し、卒業の半年後、1年後と友人とどれくらい付き合い続けているかを調べています。結果として、卒業後、関係性がものすごい勢いで切れていくということが明らかになった。一緒に遊ばなくなり、親密度も落ちていく。高校時代に特に仲の良かった友人同士でさえそうです。高校を卒業すると、進学や就職のために他の街へ引っ越す人もいるでしょう。そういった物理的な隔離が起きると関係性を維持するのは難しいのかなと考えられますね。この高校生たちは、研究者からの連絡用にプリペイドのスマートフォンを与えられていて、いつでも友人と連絡を取れる状況にありました。それでも、こういう結果になるのですから。

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