ヒッチハイクでユーラシア大陸横断、現代の“さまよえるオランダ人”
午後4時頃に世界遺産の旧市街から10キロも離れた新市街の家族経営のゲストハウスにチェックイン。キッチンで夕食を準備していると偶然ベセルもチェックインしてきた。風雨が激しくテント泊を断念したという。
その後派遣社員のチヒロ嬢、日本近現代政治史専攻の大学生ワタル君もチェックインしてきたので四人で夕食を作りテーブルを囲んだ。
ベセルによると彼のお姉さんが2年前に単独自転車でオランダ→トルコ→イラン→トルクメニスタン→ウズベキスタン→カザフスタン→中国→モンゴルとユーラシア大陸を横断して最後はシベリア鉄道で帰国という大冒険をした。ベセルもヒッチハイクとテント泊でユーラシア大陸横断を目指していた。
オランダ人はどうして背が高いのか?
ベセルはオランダ人の常として190センチの長身で金髪碧眼である。なぜオランダ人はみんな背が高いのか。
ベセルによるとオランダ人は元々それほど背が高くなかったという。17世紀以降インドネシアなどの海外植民地を獲得して生活水準と食糧事情が向上。毎日の食事の栄養価が飛躍的に向上した結果現代のように高身長になったとのこと。
ちなみに日本人も江戸時代は食料供給の制約から人口も身長も伸びなかった。代々徳川将軍の位牌が岡崎市の大樹寺で公開されている。各将軍の死亡時の身長と同じ高さに位牌を作成したというが、「暴れん坊将軍」で知られる吉宗でも155センチ程度である。
日露戦争時の大日本帝国海軍の水兵の平均身長は152センチくらい、第二次世界大戦時の陸軍の徴兵検査の平均身長が160センチ超。現代の20代男子が凡そ171センチであるから約150年間の食生活向上で平均身長が20センチ伸びたことになる。そんな日本の事例をベセルに紹介したら大いに納得していた。
植民地支配とグローバル資本主義は同罪なのか?
欧米人と話していると18~20世紀の欧米列強による植民地支配については肯定も否定もせず客観的に歴史的事実として受けとめるという態度がフツウである。さらにはマルクス史観で説明されるように先進資本主義国家間による市場獲得競争という“歴史の必然”という論理を持ち出す御仁もいる。
ところがベセルはオランダの植民地支配や強奪貿易の歴史を「恥じるべき歴史」と批判した。さらにベセルは歴史の暗黒部分を率直に認めることが、現代の国際社会を考えるうえで必須と強調した。
「経済のグローバル化により100人に満たない大富豪が世界の富の半分を支配している。19世紀や20世紀の植民地支配よりも深刻かつ広範囲に非人道的な貧富の格差が超スピードで進んでいる」と指摘した。
確かに日米欧韓という先進国では中産階級の減少、富の集中と貧困層の増大という共通の現象が進行中という分析をよく目にする。中進国や途上国に関する具体的な統計数字は不詳であるが、おそらく貧富の格差拡大は更に深刻なのであろう。
ギリギリの予算でヒッチハイクを続けるベセルはローアングルの視点からグローバル資本主義の席捲による超格差社会という近未来を憂いていた。
⇒第6回につづく
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。