立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年4月23日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

崩れゆくマレーシアの中国人街

 昨年6月、私はジョホールバルへ出かけた。目的は、フォレストシティの視察である。私が実際に見て感じた問題を以下に3つ記したい。

 ひとつは、ヒトの問題。計画によると、フォレストシティ内の人口は2050年までに70万人に達すると想定されている。この規模の人口はどこから沸いて来るのか。シンガポールへの通勤を前提に考えるなら、いまの出入国・通関はすでに限界に達している。ボーダー(国境検査場)を増やしたくらいでは到底追いつかない。

 それでは、移民という方向はどうだろう。多くの中国人は私財を海外に出そうとしているが実際に海外に住むとなると、ノーという人は多い。シンガポールを眺める人工島上で余生を過ごしたい中国人は、いったいどれだけいるのだろうか。また、仮に数十万の中国人が移民してくることになれば、マレーシア国内で大きな政治問題となるはずだ。

 次に、環境問題。人工島造成をはじめとする工事によって、マングローブが大量に伐採された。これだけの大変動に生態系は堪えられるのか、環境学の専門家ではないので掘り下げたコメントはできないが、素人目に見ても憂慮せずにいられない。

 最後に、金の問題。中国系のデベロッパーでないと、これだけの巨大投資はできない。とはいえ、無尽蔵に資金が沸いて来るわけでもない。現時点で出来上がっている人工島(写真 赤線枠)は計画のわずか一部に過ぎない。キャッシュフローは大丈夫か。他人事ながら心配せずにいられない。

フォレストシティの全体図(赤枠内が現在すでに出来上がっている部分)(写真:筆者提供)

 私が視察した2か月後の2018年8月27日、マハティール首相はついに、「フォレストシティの外国人向けの販売を中止させる」と表明した。「外国人購入者にはビザを与えない。マレーシア人のための街建設ではないからだ」と単純明快にその理由を説明した(2018年8月27日付「チャンネルニュースアジア」)。

 フォレストシティはジョホールバル地域の不動産相場を大きく上回っており、マレーシア国民の収入水準を考えると、手の届かない物件だ。マハティール氏の決断は正しい。一部の政治家や利権団体のためのプロジェクトは国益に合致しない。

フォレストシティの物件内部(写真:筆者提供)

 フォレストシティの前途はどうか。開発にまだ着手していない大半は、埋め立ても含め大幅な計画見直しを迫られるだろう。中国企業は往々にして政治と絡めてビジネスを進めたがるが、政治は諸刃の剣でもある。

基幹産業になり得ぬ不動産、中国の苦闘

「活下去」。万科の絶叫はある意味、中国の不動産業の苦境を代弁しているように思える。今年に入っても一向に状況の改善が見られない。

「中国のマンションを中心とした住宅販売が変調をきたしている。万科企業など住宅大手4社の2019年1月の販売額は前年同月に比べ3割超も減少した。上海や深圳をはじめ主要都市の価格高騰が収まり、投資資金の流入にブレーキがかかっている。需要の頭打ちが長引けば、財政を土地売却に依存する地方政府の資金難や建設・不動産などの雇用悪化を通じて景気への悪影響は避けられない」(2019年2月15日付「日本経済新聞電子版」)。

 基幹産業とは、一国の経済発展の基礎をなす重要産業を指す。ドイツは機械・自動車、イギリスは金融、フランスは文化、スイスは精密機械・観光、日本は電機・自動車、台湾は半導体、シンガポールは金融・フィンテック……。中国の基幹産業は不動産だった。バブルになりやすい不動産の脆弱性に気付いた中国は「脱不動産」を図り、IT産業に力を入れ、サプライチェーンの上流を抑えようと乗り出したわけだが、これも今、米国との貿易戦争の最中にある。

 生き残りを賭けた中国の不動産業の苦闘は今も続いている。

■修正履歴:2ページ目の「フォレストシティ」の中国語名が誤っておりましたので訂正いたしました。(2019/04/26 13:00)

  
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