「新しいものが好きで、人と話すのも好き、そして新しい場所に躊躇なく入っていける。私が社長になってから、意識的にそういう人材が集まりやすいようにしました」
そう語るのは、NTTドコモベンチャーズの稲川尚之社長。NTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として2008年にスタートした同社は、新しいことを生み出すきっかけが見出せない大企業と、リスクをとって新しいビジネスを生み出そうとするベンチャー企業の橋渡しをするべく誕生した会社だ。
東京とシリコンバレーに拠点をおいて活動している。情報通信(ICT)分野を中心にこれまで100社を超えるベンチャー企業に、累計数百億円の投資をしてきた。
辞めても出戻ればいい
社員は、NTTドコモからの出向者。30代の若手社員が中心だ。シリコンバレーの自由な息吹に触れることで、転職する人もいるという。
「辞める人がいるのは会社として非常に悩ましいことだと思っていますが、一方で人材の流動性が高まることは良い面もあると考えています。例えば、以前シリコンバレーの拠点にいたエンジニアがグーグルに転職しました。その後、彼と話をする機会があったのですが、このように言っていました。『給料は倍になりましたが、仕事の忙しさも倍以上になりました』。じっくりと仕事に取り組むという点では、うちにいたほうが良かったという話でした。シリコンバレーのエンジニアの中にも、色々な選好があるはずで、そうした話が、外部に伝わっていくのは良いことだと思います」
さらに稲川さんは出戻りもあるべきだと話す。
「外部で経験を積んだ人がまた帰ってくるということも、あっていいと思いますし、人材の流動性が高まれば、以前ドコモにいたから、また一緒に仕事をしようなどということも起こるかもしれません」
CVCといえば、投資先から「金銭的リターン」を得るというよりも、本業における協業や新規事業開発におけるメリットを狙う「戦略的リターン」を求めがちのように思われるが、必ずしもそうではないという。
バッターボックスに立つことが大事
「リターンのターゲットはなにか? 金銭、戦略かの二元論となりがちですが、どっちかじゃないといけないのかという話ではありません。両方ほしいというのが、実際のところで、その中庸点を狙うことが大切です。
例えば、配車サービスのウーバー。彼らが誕生したときには、単なる白タクじゃないか、という見方がされていましたが、その時に出資していれば、金銭的に大きなリターンも得られたはずです。この世界で大事なことはバッターボックスに立つことです。それは、金銭か戦略かということではなく、投資家のサークルのなかに入るということです。そのコミュニティに入ることで、有望なベンチャー企業の情報が入ってくるようになるのです。シリコンバレーでは、特にこうした人脈の“深化”に注力しています」