地球、そして太陽系の成り立ち解明という壮大な惑星科学研究の世界に、日本人女性初の惑星探査計画の主任研究員を務める研究者が挑む。
「なぜ地球だけに生命が存在するのか」。幼い頃に抱いた疑問から、何十億年も前の太陽系、地球の起源を追う研究の虜(とりこ)になった荒井朋子。大学時代に隕石(いんせき)研究と出会い、熱は一気に高まった。「隕石には、太陽系初期に作られた鉱物が含まれています。地球以外の天体由来の隕石には、太陽系全体を俯瞰(ふかん)し、地球を位置づける手がかりが詰まっています」
2013年からはNASAと連携し、国際宇宙ステーション(ISS)に超高感度カメラを設置し流星を2年間観測する「メテオ」プロジェクトを牽引(けんいん)。千葉工業大学のメテオ運用室から、ISSにいる宇宙飛行士やNASAの地上管制官と会話をし、カメラ調整やデータ記録用ハードディスクドライブの交換などを行ってきた。宇宙から流星を長期間連続して観測する試みは世界初だ。流星は、彗星や小惑星から放出された牽引(ちり)が大気突入時に発光する現象(塵のサイズが10センチ以上だと燃え尽きず隕石として地上に達する)で、「メテオ」の観測により流星塵の組成情報が得られる。
「ISS内には各国の実験棟がありますが、地球側を向いた窓があるのは米国実験棟のみで、そこを通して地球が観測されてきました。その窓を借りて惑星科学の視点で研究を行いたいとNASAに提案したことで、プロジェクトが開始しました」
今春に全観測が完了した今、荒井はふたご座流星群の故郷である小惑星フェートンに探査機を送り、天体や塵の組成などを調査する小惑星探査計画「デスティニープラス」の主任研究員を務め、22年の探査機打ち上げを目指す。日本初の女性の探査計画責任者だ。ふたご座流星群は有機物を含む塵を毎年地球に届けており、地球生命の種と成りうる地球外物質やその由来天体を理解する重要な手がかりとなる。ただ、この計画もすんなり進んだわけではない。
「計画自体は10年に学会に提案しましたが、フェートンが秒速30キロ以上の速さで探査機とすれ違う僅かな時間での調査のため技術的に難しく、費用対効果が小さいという評価を受けました。そんな中、JAXAで小型のイプシロンロケットを利用した探査プログラムが発足しました。そこで、その探査で使う衛星に我々の装置を相乗りさせてもらう形で探査計画を応募したところ、17年に計画が採択されました」
惑星科学研究の未来について荒井は語る。「太陽系成り立ちの理解は、その時代で可能な分析・観測技術で得られる情報に基づいています。技術進歩と共に、過去の知見を検証し、新たな理解につなげていくのです。今の時代にできる最善の研究を積み重ね、そのバトンを次の世代に繋いでいきたいです」
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