2024年12月14日(土)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年7月13日

iStock / Getty Images Plus / Booka1

 台湾のニュースでは対極的な二つの光景が流されていた。

 ひとつは香港での「反送中デモ」、もうひとつが台湾で起きたエバー航空労組によるストライキだ。

 かたや、刑事事件の容疑者(外国人を含め)を中国へ移送することが可能になる「逃犯条例」(容疑者引渡条例)の可決を阻止するため、すなわち自由と司法の独立を守るために市民が立ち上がったデモであった。

民主化がもたらした「自由の苦い味」

 発端は6月9日だった。翌週には「逃犯条例」の改正審議を翌週に控え、香港では大規模デモが起きたのだ。2014年、台湾でのヒマワリ学生運動に感化されたかのように香港で起きた民主化堅持を求める「雨傘運動」は、結果的には警察による強制排除などもあって尻すぼみのような結果に終わってしまったが、今回のデモでは主催者発表で100万人以上が参加する前代未聞の規模だった。

 香港同様、中国が併合の野望を隠さない台湾でも「今日の香港は、明日の台湾」と言われるように、香港が陥落すれば中国は続いて台湾にも魔の手を伸ばしてくるという危機感が強い。そのため、皮膚感覚では、日本での報道に比べ、関心の高さもニュース量も台湾が格段に多いように感じる。大手テレビ局は各局がカメラマンやリポーターを派遣して香港から直接映像を送ってくる。

 翌週、香港の議会にあたる立法会を囲んだ数万人のデモ隊と警察が衝突。警察は催涙スプレーやゴム弾で制圧を進めたため、負傷者が続出した。ゴム弾が顔面にあたり失神したり、目から出血する参加者の姿が台湾のテレビニュースでは大きく流されていた。

 一方、エバー航空のストライキは、台湾社会ではほとんど同情や支持を得られぬまま終結してしまった。会社側も、客室乗務員や地上職員で構成された労組の待遇改善要求をほぼ撥ね付ける姿勢を貫いたため、労組の敗北といってよい結果だった。にもかかわらず、市民から冷たい眼差しを投げかけられるのは、彼女たち(ストライキに参加していたのはほとんど女性従業員)が一般的には、かなり恵まれた給与水準を得ていながら、それでもなおより高い待遇を要求したことが挙げられる。

 台湾の行政院主計総処が公表しているデータを見ると、30代から40代の平均月給は4万元前後(日本円で約14万円)にとどまっているところ、年齢にもよるが、エバー航空の客室乗務員だと搭乗手当などを含めれば倍以上の水準の待遇を得ている場合が多い。そうした客室乗務員は高給、という実情は結構知られているので、私の周囲でもストライキを支持するどころか「まだ欲張るのか」と不快感を示す台湾人が多かった。結果、ほぼ3週間近くにわたるストライキによって多くの便が欠航になり、なんと1440便が欠航。ドル箱といわれる日本線でも多くの欠航が出たようだ。

 私は香港と台湾というこの二つの光景を見比べて、台湾の民主化がもたらした「自由の苦い味」を感じずにはいられない。


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