7月21日に行われたウクライナの議会選挙では、ゼレンスキー大統領の新党、「国民の奉仕者」党は議会選挙で圧勝した。ゼレンスキーは、4月の大統領選挙で勝利した直後に、議会を解散、早期選挙を行うとしていた。
ウクライナ議会は1院制で定数は450名である。比例代表と小選挙区並立性である。ロシアや親ロシア派が実効支配する地域では選挙が実施できないので、424議席が今回の選挙で争われた。
「国民の奉仕者」党はそのうち、240議席以上を占め、単独で過半数をもつ第1党になった。第2党は親ロ傾向がある「野党プラットフォーム―生活」党であるが、45議席程度になると思われる。ポロシェンコの党、「欧州連帯」は30議席、ティモシェンコ元首相の「祖国」は25議席にとどまる。新党として、ロックスターが設立した政党、「声」が20議席を得ると見込まれている。この「声」は「国民の奉仕者」党の自然な同盟者とみなされている。
4月の大統領選挙の結果と今度の選挙結果は、ウクライナの選挙民がこれまでの政治に愛想をつかして、変化を求めた結果である。しかし、ゼレンスキー本人も「政治的素人」であるし、党にも政策経験が豊富な人はほとんどいない。彼らは多くの課題を背負っている。国内政治に対する権力は議会に集中しているが、大統領は防衛と外交政策を監督している。ゼレンスキーには国際情勢に関する知識はほとんどない。ロシアのプーチン大統領は彼を試すだろうが、しっかりとした姿勢、背骨を維持しなければならない。ゼレンスキーは、支援について国際通貨基金(IMF)とも交渉しなければならない。さらに重要なのは国内改革である。法の支配を改善し、より多くの国有企業を民営化し、財産法を自由化するために迅速に動かなければならない。腐敗は成長を遅らせる最大の要因である。
ゼレンスキーは腐敗汚職の根絶、東部での紛争の停止とウクライナ捕虜の帰還を重点事項にすると言っている。国民は生活改善を求めており、特にガス料金の引き下げなど、公共料金の引き下げを求めている。ただ、IMFの融資をつなぎとめるためには、安易にこれを行うわけにもいかない。
これらの課題をどうこなしていくか、ゼレンスキーにとっても「国民の奉仕者」党にとっても、難しい問題である。ウクライナ国民はゼレンスキーとその党に大きな期待を寄せ、強い権限を与えた。しかし、高すぎる期待は実際にその期待を満たされないときには、簡単に失望、幻滅につながる。ウクライナ政治のあまりに急速な変化はその意味で相当のリスクも伴う。
他方、ウクライナに民主主義が定着し、経済的にもうまくいっているということになれば、ロシア人に与える影響は相当に大きい。プーチンは、ウクライナが民主主義で繁栄するモデルをロシア人に示すことを恐れていると見られる。ただ、百選錬磨で老獪なプーチンとコメディアン上がりのゼレンスキーでは、国力や交渉能力に大きな差があり、どこまでプーチンに太刀打ちできるか、一抹の不安がある。米と欧州諸国がゼレンスキーを支援することが大切と思われる。
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