過疎化や空き家の増加が加速するなか、自治体は何をすべきなのか。従来の枠にとらわれない公務員の存在が、いま求められている。
東京都心から電車で2時間弱。埼玉県毛呂山町は住居の5軒に1軒が空き家で、空き家率は県内ワースト。4年前、町は将来の姿を示すべく、コンパクトシティ実現に向けた立地適正化計画の策定を決意。役場に勤める酒井が外部に作成を依頼したところ、1000万円以上かかると言われた。「ならば自分で作ろうと思ったんです。町の強みや弱みを一番把握しているのは役場の人間のはずですから」。業務終了後、酒井は町の将来を構想しながら、書類作りに励んだ。
全国町村における第一号となったこの計画では、人口減少の現実を受け入れ、実際に規制も始める。2020年から指定区域外では実質的に住居建設ができなくなる。一方で目標も必要と、20年後の公示地価を10%以上上昇させると掲げた。同じ悩みを持つ自治体からの問い合わせが相次いだ。
酒井の前職は広告会社の営業マン。朝から晩まで働き、社内外の評価も高く、やりがいもあった。しかし、東日本大震災を機に仕事に対する意識が変化。地元に貢献したいと考えるようになり、今の仕事に就いた。
前職の名残だろう、今でも常に足を運ぶことを大切にする。時間を見つけては東京へ出向き、省庁や民間業者に町の魅力をプレゼンして回る。「まずは毛呂山を知ってもらう。いま必要なのは、大きな予算ではなく交通費くらいですよ」。
人口減の中で楽しむことを意識する。町内の公園で、普段禁止されていることをあえて行うイベントを実施した。「公園はコミュニティの重要な場所。周囲の住民にとって本当に迷惑なだけなのか」。焚火(たきび)を使って食事を振る舞い、スケートボードなどのスポーツを楽しみ、大いに町民が楽しんだ。終了後、イベントを後で知った住民が、怒った表情で近づいてきた。酒井は身構えた。耳を傾けると、反応は真逆だった。「何でもっと早く教えてくれなかったんだ。俺も参加したかったのに」。住民のために動くという公務員の原点を改めて実感した。
「10年後、公務員のほとんどの仕事がAIに代替されるかもしれない。その分、クリエイティブに、そして汗をかくことが公務員の仕事になる。住民のために、公務員の姿も変わる時代ではないでしょうか」。酒井が起こす行動で、この町の将来が今、少しずつ変わろうとしている。
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