ジェンダー観をアップデートする

2019年9月18日

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小川たまか (おがわ・たまか)

フリーライター

1980年東京生まれ。教育、働き方、性暴力などを取材。『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(2018年/タバブックス)。Yahoo!個人「小川たまかのたまたま生きてる」(https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/)などで執筆。Twitter:@ogawatam

男女対立を望んでいない
でも、妥協や欺瞞で良いわけがない

――『キム・ジヨン』はさまざまな年代の人に読まれています。

斎藤:一人の女性の生涯をたどっているから、どこかの時点では共感できるということもあるのかもしれません。私たちが生きてきたのは高度経済成長時代で、昨日よりも明日が良いという幻想に浸っていた時代。そうでなくなってきた日本で育っている人たちに対して、いいアドバイスができるのか。自分の経験値ではできませんよね。対話を通して、それでも共通なものは何かを知らないといけない。

――以前、飛行機の中で隣になった人の良さそうなおじいさんから「今の人はなんで子どもを産まないの? 昔だって貧しかったけれどそれでも子どもを育てたんだよ」と言われて、「未来への期待がないんです」みたいなことを言いました(笑)。

斎藤:社会の成長曲線のどこにいるかで全然違うんですよね。小津安二郎の映画に出てくる若手サラリーマンとか見ていますと、それはそれはお金がないです。共稼ぎでも全然ないんです。でも10年したら課長になっている期待感はある。それが全然違いますよね。そのことがわかっていない上の世代がまだ多すぎるのですね。

――少し前、上野千鶴子さんが情熱大陸に出演された頃にツイッターで、「上野千鶴子氏や東大に入った女性たちみたいに特別頭がいいわけじゃなくて、エマ・ワトソンみたいに綺麗な女じゃなくても、ジェンダーとか男女同権とか恥ずかしがらずに言える世の中になれば良いのにって思った」とつぶやいていた女性がいて、そういう声は大事だなと思いましたし、今の20~30代で共感する女性は多いのではないかと思いました。

斎藤:本当にそうだと思いますよ。理論武装は大事だけれど、理論武装しないと怒れないというのもバカバカしい。本音を言っていい、生の声を言っていいと教えてくれたのが田中美津さん(※)ですね。

(※)最新刊は『この星は、私の星じゃない』(岩波書店)

――街場のフェミニズム。

斎藤:すごい人は高学歴、高年収の人たちの中だけにいるわけではないんですよね。いつの時代も。『キム・ジヨン』を読んだ人たちが、職場や学校や家庭で「今まで黙っていたけど、私は嫌だったんだ」と口にすることは、ものすごく大きな動きだと思っています。その場を固まらせてしまうようなことを言ったり、場違いなことを指摘する人はすごいパワーを持っていると思う。

――フェミニズムや性暴力の話はどうしても「男女対立」という枠の話になりがちですが、ツイッターで、先程もお名前が挙がった尹雄大さんが「本作は男女の対立を描いてはいない。対立というような対称な関係にはない」と言っていて、それもそのとおりだと思ったんですよね。社会構造の中で、そもそも力関係が対称ではないです。対立にもならない。
https://twitter.com/nonsavoir/status/1145265686538674176

斎藤:そうですね。そもそも今、対称な関係ではない歪さに気づいて男女が協力するためには、あと何が必要なのかと考えますね。

 先ほども言ったように、家庭や教育の場は変わってきた。でも結局、みんながアウトプットする場である職場が変わっていかないから、家庭での変化にも限界があるんじゃないでしょうか。『キム・ジヨン』はそんな中で、一人の女性が自分の声を失っていく話。言いたいことがあるけれど、自分でどう言いたいかわからなくなって、身近な女性たちの声が反響して自分の口から出てくる。「この人たちの声は世の中で聞かれたことがない」とジヨンが思っている人たちの声です。

 その声の主の持ち主である彼女たちが対立を望んだのか。そうではない。けれど、妥協や欺瞞を望んだわけでもない。

――斎藤さんも仰ったとおりジヨンの父や夫はどちらかといえば先進的なタイプの男性です。男性に厳しい小説かといえばそうではないですよね。

斎藤:夫は先に謝ったりもしますし。見かけの「対立」を解いて相互に理解していく、先のあるモデルと捉えることもできるのではないかと思います。

 すでに韓国では映画化され、10月に公開されるそうです。日本での公開は来年になりますが、映画になったとき、二人の関係がどのように表現されるのかが楽しみですね。


  
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