2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2019年10月28日

復興の進展で新たな問題が浮上

 一方、復興が進み街の形が変化することで、市民生活に新たな問題が浮上している。仮設住宅の閉鎖が進んだことで、「仮設スーパーの撤退が進み、買い物困難地域が出てきている」(佐々専務理事)という。

高台に移転された鵜住居小学校(Wedge)

 その一つがW杯のスタジアムが建設された鵜住居地区だ。もともとスーパーが1店舗あり、震災後も仮設で営業を続けていたが15年に閉店。住民は市の中心部や隣町まで日用品の買い出しを余儀なくされていた。学校は高台に移転し、宅地の造成が進んでも、「スーパーがないと、この地に戻ることができない」と住民から強い要望が出されていた。

 そこで市の第三セクター「釜石まちづくり」がスーパーを核にした商業施設の事業計画を描き、企業誘致を試みた。しかし、市内最大の犠牲者を出したこの地区は、震災前から4割超も人口が減少して4000人を下回っており、小さな商圏で採算が合わない、とスーパーの出店拒否が相次いだ。

 計画がお蔵入りしかけた今春、マルイチ(盛岡市)が「一度はお断りしたが、岩手の企業としてお役に立たないといけない」(玉井康隆・店舗企画部長)と赤字覚悟で出店を決断。今年9月に計6店舗が入る「うのポート」が開店した。出店にあたっては「商圏の心配だけでなく、約30人のパート従業員集めにも苦労した」(玉井氏)といい、夜間の時給は1000円を超える。

 同施設を管理する「釜石まちづくり」の佐々木秀樹氏は計画が実現して胸をなでおろすが、「住民も商業施設に入る事業者も高齢化していく。将来にわたり施設をどう持続させていくかが今後の課題」と厳しい現実に目を向ける。

 釜石の町のインフラは、この8年半で着実によみがえり、強化された。問題は生まれ変わったこの街に、人々の生活や事業の営みを定着させ、それを持続させられるかどうかである。釜石の挑戦は続く。

【ルポ、釜石にラグビーW杯がやってきた日】
東日本大震災で9メートルを超える津波に襲われた釜石は、未曽有の大災害に見舞われた。それから8年半の月日が経ち、ラグビーの街に待望のワールドカップがついにやってきた。取材班はそんな街の熱気を感じようと、試合前日に釜石に入った。(2019/09/26

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■ポスト冷戦の世界史 激動の国際情勢を見通す
Part 1 世界秩序は「競争的多極化」へ 日本が採るべき進路とは 中西輝政
Part 2   米中二極型システムの危険性 日本は教育投資で人的資本の強化を
             インタビュー ビル・エモット氏 (英『エコノミスト』元編集長)

Part 3   危機を繰り返すEUがしぶとく生き続ける理由  遠藤 乾
Part 4   海洋での権益を拡大させる中国 米軍の接近を阻む「太平洋進出」 飯田将史
Part 5   勢力圏の拡大を目論むロシア 「二重基準」を使い分ける対外戦略 小泉 悠
Part 6   宇宙を巡る米中覇権争い 「見えない攻撃」で増すリスク 村野 将

  
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◆Wedge2019年11月号より

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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