2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月28日

 最近の中国の強気の言動は、その裏に不安を抱えた虚勢であるかもしれない。米国のシンクタンクCSIS のグッドマン上級副所長は、9月に開催された「中国発展ハイレベルフォーラム(CDF)」に出席し、‘The Anxiety Behind Beijing’s Swagger’と題して、その観察を9月30日付けでCSISのサイトに掲載している。次のくだりは、印象的である。

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「中国の学者や官僚との個人的な会話でさえ、表面上の成功とは裏腹に、被害者意識と守りの姿勢がにじみ出ていた。誰もが米中関係の混乱状態に対する中国の責任を認めようとはしなかった。中国は、米国による不条理な攻撃を受けているというのである。著名な元外交官は、中国の知的財産の「窃取」への米国の非難に対して「中国人を泥棒呼ばわりするのは、『屈辱の世紀』を想起させる」と苛立った。私的な夕食会において、8人もの中国の著名な学者は全員が香港での抗議活動の裏に米国がいると主張した」

その上で、グッドマンは中国の「虚勢と防御」の意味を以下の3つに整理している。

(1)中国が二国間の貿易戦争で大きな譲歩をする可能性が低いことを示唆している。確かに貿易摩擦は北京の経済マネジメントを複雑にしており、政治的問題を引き起こしているかもしれない。そのため、今後数カ月の間に、中国による大豆の購入や関税引き上げの延期、ファーウェイへの投資制限の解除などの「ミニディール」はありうる。しかし、中国は米国が構造的な懸念を持つ国有企業重視の姿勢をこれまで以上に深めている。

(2)中国は国内への統制を一層強める可能性が高い。最近の例では、国家発展改革委員会は今月、企業を評価する社会信用スコアのシステムを一歩発展させた。外国人の幹部たちは、これが新たな外国投資法がもたらす利益を打ち消すのではないかと懸念している。

(3)守りを強めようとする中国は、より危険になる可能性がある。高揚したナショナリズムと中国が包囲されているという感覚は、より強硬な政策をとることに繋がる。不安定な香港情勢も中国の行動に対する差し迫った懸念材料となっている。

 グッドマンは、米国の取るべき政策については「中国は、米国との貿易戦争で、一部の者が想像するほど弱体化したわけではないが、恐れるほど強いわけでもない。米国は技術的優位性を持し、グローバル・ルールを擁護し、他国を米国の側に引き入れ、自らの競争力に投資することで、虚勢と不安の入り交じった中国の挑戦に対応することができる」と書いている。

 グッドマンの中国の現状に対する見方は、かなり正確であるように思われる。同時に建国70周年の行事に大多数の中国人が感動し、中国人としての誇りを再確認し、強い中国に対する自信を深めているのも、また事実である。トランプ政権の対中強硬姿勢も、中国の国内の団結を強めている。香港の動きに同情する大陸の中国人は、ほぼ皆無である。香港問題は、習近平政権を動揺させる国内的要因にはなっていない。

 中国の問題は、むしろ国内から来る。習近平は国内運営を毛沢東的にやりたがっていることが、ますますはっきりしてきた。つまり、イデオロギーであり、精神論であり、組織と社会の締め付けの重視である。貴重な学習の時期が文化大革命と重なり、海外経験もほぼない習近平にとり、毛沢東時代に戻るしか選択肢を見つける方法はないのだろう。このやり方に対する党内の反対は根強い。さらに徹底すれば社会も否定的に反応するようになるだろう。

 習近平は国内的に一進一退を続けているように見受けられる。晴れの舞台であるはずの建国70周年の立ち居振る舞いに、2017年の第19回党大会のときのような迫力がなかったと感じられる。10月14日に習近平は訪問先のネパールで「いかなる地域であれ、中国から分離させようとする者は体を打ち砕かれ骨は粉々にされるだろう」と述べ、国際的にも大きな話題となった。こうした強硬な発言は、国内で一進一退を余儀なくされている習近平の焦りを表しているようにも思われる。グッドマンは「守りを強めようとする中国は、より危険になる可能性がある」と言っているが、「中国」を「習近平」に置き換えても、全く同様に成り立つのではないだろうか。

  
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