『大人のための恐竜教室』(ウェッジ、2018年)での著者の真鍋氏の説明では、鳥に進化した小さい恐竜(25キログラム未満)の中でもクチバシを持つ種類のみが生き残れた。
なぜなら、鳥になった種類は移動が容易で、体が小さいと餌も少なくてすみ、歯と違ってクチバシは堅い木の実や種を食べるのに適し、歯がクチバシに変わると卵から孵化までの無防備な時間を短縮できたからだ。
恐竜が消えると、それまで体長1メートル以下だった哺乳類が急激に大型化し、種類も増え「哺乳類の時代」が到来する。ワニやカメなどの爬虫類の種類や形の変化はさほどなかったが、鳥類は繁栄し多様に分化した。
かくして、哺乳類の階段を登りつめた人類がかつての大型肉食恐竜の占めていた地位に居座り、その人類の庭先にさまざまな野鳥が飛来する「現在」、が実現したのである。
人間が原因の大量絶滅
だが、それにしても、と思うのだ。
脊椎動物が通常の環境で「絶滅」するのは100年間に0.1~1種とされている。
ところが、データの残る西暦1500年以降、地球では陸生脊椎動物の少なくとも338種が絶滅しているのだ。そのうち全種が捕捉されている哺乳類と鳥類で言えば、1900年から2019年までの114年間に、哺乳類35種、鳥類57種が絶滅した。
この短期間における異常な生物消滅は〈第6回目の大量絶滅〉と呼べるもので、主因は隕石衝突や火山噴火などではなく、〈私たちホモ・サピエンスの仕業である〉(『図録』)。
つまり我々は、快楽を身内で独占するため、地球資源を収奪し、生態環境を破壊し、汚染物資を垂れ流し、気候まで不可逆的に改変し、地球史上第6回目となる全動物・植物の「大量絶滅」を招きつつあるのだ。
恐竜博の「恐竜絶滅」のコーナーに、ティラノサウルスの全身骨格が展示されていた。
地球最大の大型肉食恐竜にして恐竜時代の末期に君臨した王者である。
子どもの頃ひたすら憧れた恐竜王だが、「恐竜絶滅」の経緯とその後を追った解説を読んだ後で改めて眺めると、視点も変わる。
生え替わるギザギザの歯が並んだ巨大な頭部と、短くて小さすぎる前肢。体長13メートルの体にこの大きな口と貧弱な手は、生物のバランスとしては失敗作なのでは?
ティラノサウルスは鳥類へ進化した恐竜グループと同じ獣脚類。背中に羽毛もあった。もし、もっと早い時期に食欲に身を任せるのを止め、大顎以外の方向を選んでいたら……。
いや、恐竜王者の欲望も、人類の欲望も、中途の軌道修正はやはり不可能なのだろう。
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