ロシアのプーチン大統領は今年の年次教書で、国家評議会を内外政策を決定する場にするなどとした憲法改正を提起した。その狙いの一つは、プーチンが2024年に大統領の任期を終えた後、現行憲法では再選が禁止されているので、新たに国家評議会議長として院政を敷くという意図であると思われていた。しかし、3月10日に突如として、世界初の女性宇宙飛行士で現在は国家院(下院)議員を務めるワレンチナ・テレシュコワの提案に基づき、国家院は、改正後の新憲法下では時計をリセットして、再度、さらに2期12年間大統領にとどまれるようにすることが承認された。
現憲法には大統領は連続2期までに限るとの規定があるので、国家院が承認した改正案は、それには明らかに反する。憲法改正案は憲法裁判所で合憲か否かのチェックを受ける必要があるが、3月16日に、同裁判所は是認する判断を下した。
この憲法改正案は4月22日に国民投票にかけられる予定だったが、新型コロナの影響を考慮して延期となり、実施時期は未定となった。しかし、いずれにせよ結果は見ものである。こんなあからさまな茶番劇に国民が投票に行くのかという問題がある。投票率が50%を切れば、国民投票は成立しない。原油価格が下がる中、経済事情はさらに悪くなるから、プーチンの支持率も下降気味になるだろう。エコノミスト誌の3月12日の記事‘Russia’s president reluctantly agrees to 16 more years in power’は、「プーチンは、2000年、2004年、2012年、2018年と同じように2024年と2030年にも弱い反対にしか直面しないことを想定している。そうなるだろうか。改正のタイミングは彼にとって不吉である。今週の原油価格の崩壊は経済に打撃を与える。彼は20年間指導者であり、化石燃料の代替品を見つけるという明確な世界的傾向にもかかわらず、石油とガス依存からロシアを多様化するのに十分なことをして来なかった」と指摘する。
憲法改正案には、国際法よりも憲法が優越するという規定も含まれる。プーチンはロシアという安保理常任理事国を、国際法を守らない「ならず者国家」にしてしまった。国際法の法源は、慣習国際法、条約、法の一般原則であるが、憲法で国際法優位を否定する国と条約を結んでも意味がないことになりかねない。日ソ共同宣言など既存条約の効力も否定されかねない。
ロシアの経済力、GDPはIMF統計で世界12位、韓国以下である。今度のことで、対ロ関係・政策をどうするか、日本としても考える必要がある。信義誠実さに欠けるロシアには厳しく対応することが正解であろう。
プーチンのロシアは汚職にまみれた国である。少し古い数字だが、ロシア中央銀行は2011年、GDPの2.5%にあたる490億ドルが汚職で失われたと報告した。事態は今も変わっていない。
なお、先のエコノミスト誌の記事は「プーチン大統領のクリミア併合、ウクライナ東部への侵略、他国の選挙への干渉、外国の領土での反対者の殺害などの政治的行動は、ロシアをパリア国家(賤民国家)にしてしまい、ロシアは解除の見通しのない制裁下にある。普通のロシア人にとって、生活はより厳しくなるだろう」との見通しを示している。
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