ロシア議会は、プーチンが1月発表した憲法改正提案に関する立法措置を延期することを決定した。さまざまな組織や個人からの提案が寄せられたためである。提案の多くは奇妙なもので、大統領を「最高指導者」で置き換えること、「歴史の歪曲に対抗する」必要を正式に法典化すること、などであるが、これらの提案は作業部会で検討され、その後、下院に勧告がなされることになった。
このような多様な意見表明は、決して民主主義の現われなどではなく、クレムリンが提起した22の憲法改正ポイントは実質的には変わっていない。大統領権力のさらなる強化、国際法(欧州人権条約を含む)の国内法に対する優位性の事実上の否定、大統領を含む選挙されるポストの被選挙資格の制限、国家評議会の拡大(4年後、プーチンの最後の大統領任期が終わった後に、彼の権力基盤たりうるもの)などである。2020年の憲法「改革」は、プーチンの終身統治者としての地位を制度化するものである。
ロシア憲法は第9章で憲法の修正および改正に関して定めている(103条から107条)。それによれば、改正の対象によって手続きが異なる。連邦議会は、第1章「憲法体制の基礎」、第2章「人間および市民の権利と自由」、および、第9章「憲法の修正および改正」にかかわる憲法改正はできない。これらの章の改正提案が連邦会議(上院)および国家院(下院)の総数の5分の3で支持されたときには、憲法会議が招集され、そこで改正するか否かが決められる。改正することになった場合、新しい憲法草案が作成され、憲法会議の総数の3分の2で採択されるか、国民投票に付される。国民投票では有権者の過半数が投票に参加し、その過半数が賛成すれば採択されることになっている。一方、憲法の第3章から第8章の修正は、国家院の総数の3分の2、連邦会議の総数の4分の3で採択され、その上で連邦構成主体の3分の2の賛成を得ると採択されるという手続きである。
今回のプーチン提案は、国際法の優位性否定を含んでおり、それは第1章第15条の改正を意味するので、この点については、憲法会議と国民投票手続きが必要になる。そのこともあり、プーチンは憲法改正を国民投票に4月にもかけることを考えているようである。国民投票実施が憲法上の要請でもあるので、国民投票は行われることになろう。
ヤブロコなど野党陣営は棄権による投票率の低下、NOの投票奨励などの運動を繰り広げていくことになるだろう。政権側はメディア統制、利益誘導、弾圧で対抗していくだろう。しかし、政府反対派としてこの機会を利用しない手はない。国際社会も関心をもって国民投票が正直に数えられ、政権側もその結果を受け入れるように求めていくことが必要である。
この国民投票の結果、プーチンに対する信任が思ったほど高くないとの結果が出ることがロシア政治の健全化につながると思われる。19世紀の英国の歴史家・思想家・政治家であるアクトン卿が言ったように、「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」からである。
なお、憲法改正の作業部会では改正案に「領土割譲の禁止」を追記すべきであるとの意見が出て、プーチンは「考え自体は気に入った」と応じている。日ロ間の北方領土問題を含む平和条約交渉に影響するだろう。
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