波の高さや風の強さ
自然条件の違う欧日
世界的にみるともともと陸上に建設されることの多かった風力発電だが、00年代から欧州を中心に、風況が良く、土地の制約も少ない洋上での建設にシフトした。
そもそも、英国を中心とした欧州で洋上風力発電の導入が進んだ理由は、その〝恵まれた〟自然環境にある。英国、ドイツ、デンマークなどの間にある北海の南部には、水深10~20メートルの大陸棚が広がる。洋上風力発電の風車には、水深60メートル未満の海域への設置が適した「着床式」と、水深60メートル以深の海域でも設置が可能な「浮体式」の2種があるが、北海はコストの低い着床式風車を設置できる遠浅の海域だ。
また、年間を通じて同じ方角から吹く偏西風も欧州で導入が進んだ大きな要因だ。北海南部は、年間平均風速毎秒9メートルと風況に恵まれている。
このような環境の下、洋上風力発電の導入が大量に進んだことから、発電コストは欧州平均で1kWhあたり約14円まで下がってきた(国際再生可能エネルギー機関調べ、1ドル110円で計算)。一部の洋上風力発電では、入札によって同約6円で売電されていることから、さらなるコストダウンが進んでいるとみていい。
一方、日本はどうか。日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた「管轄海域」の広さは世界有数だ。再生可能エネルギーの主力電源化を目指す政府は、この地の利を生かそうとしている。しかし、実用化に向けたハードルは欧州より高そうだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部風力・海洋グループの佐々木淳主任研究員は、欧州と日本の自然環境の違いが大きいと指摘する。
「まず違うのが風況だ。欧州では安定した強い風が吹くが、日本は季節風や台風などにより、欧州ほど安定していない。また、季節ごとの平均風速の揺れ幅も大きい。そのため、場所によっては強く吹く風に備えて風力タービンのブレードを強くするなど、欧州と比べて高クラスの設備が必要になる。また、設備の基礎の部分についても、地震や津波を想定して設置しなければならない」
実際、欧州の北海南部の平均的な波の高さ(有義波高)は1・6メートル以下だが、日本の太平洋側は2メートルを超える海域が多い。波が高ければ、設備が止まったときの原因の確認や、電気工作物としての定期点検の際に現地にたどり着けないことも多くなり、稼働率にも影響する。経済産業省が丸紅や東京大学などに委託して進める浮体式風車の実証研究事業「福島洋上風力コンソーシアム」においても、波高1・5メートルが設備点検などの船を出すか否かの基準だ。
また電力中央研究所社会経済研究所の尾羽秀晃特別契約研究員は、「日本で安価な着床式風車を入れようとすると、漁業関係者との調整が必要となる海域や、景観問題などが生じやすい陸に近い海域に設置せざるを得ない。こうした利害関係者などとの衝突を避けるには、欧州でも大規模な商用化が進んでいない浮体式風車を陸地から離れた場所に設置する必要がある」と指摘する。浮体式風車から電力需要のあるエリアに送電するには、設置場所によっては海底ケーブルの長距離化も必要となる。
風力発電を推進する業界団体である日本風力発電協会の加藤仁代表理事は今年2月、「日本洋上風力タスクフォース」の発足会見で、「欧州では、発電設備や建設事業者など産業界のプレーヤーが地場の事業者であり(日本と人件費が同等であっても)発電コストが下がっている。自然条件の違いはあるが、日本メーカーによって産業が立ち上がりコストダウンをはかれば、中長期的にみれば日本でも1kWhあたり10円程度に下げることができる」と期待を込めて展望を語った。
洋上風力発電が日本の「主力電源」となるには、安定した発電を供給できるかが第一のハードルとなる。
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