ビジネスパーソンのための「無理なく実践!食育講座」

2020年4月21日

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佐藤達夫 (さとう・たつお)

食生活ジャーナリスト

1947年5月30日、千葉県千葉市生まれ。1971年北海道大学水産学部卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。日本ペンクラブ会員、女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)、食生活ジャーナリストの会事務局長。主な著書共著書に『食べモノの道理』(じゃこめてい出版)、『栄養と健康のウソホント』(一般社団法人家の光協会)、『これが糖血病だ!』(女子栄養大学出版部)、『安全な食品の選び方・食べ方事典』(成美堂出版)、『野菜の学校』(岩波書店)、『新しい食品表示の見方がよくわかる本』(中経出版)ほか多数。講演活動では、「あなたはなぜやせられないか?」「生活習慣病は自分で治す」など肥満や糖尿病のメカニズムや、「健康長寿のための食事と生活」という食生活と健康にまつわる最新情報を、医師の視線ではなく、一般の人にわかりやすいことばで提供する。あるいは、健康を保つ上で欠かせない技術としての「安全な食品の選び方」や「食品表示の見方」あるいは「健康にいい野菜の栄養情報」を、やさしく解説する。また、長年、女性雑誌を編集してきた立場から、「男性の家事が社会を変える」「中高年からの二人暮らし」などのテーマで、男性の家庭内自立を説く。

EBM(医学)の分野では、いくら「効果がたしか」であることが明確であることでも、一般市民が投薬したり治療したりすることはできない(法律で禁じられている)。これに対してEBN(栄養学)のほうでは「○○という食品が××に効果的」だという情報があったときに(それが正しいか正しくないかは別にして)○○を食べることは、専門家ではなく、だれにでもできるからだ。

この「だれでも」つまり(ことばは悪いが)素人にでもできるということが、EBNの正しい普及を極端に妨げている1つの原因だということができるだろう。一方で、「素人対象」であることを逆手にとって、悪意を持ってあるいは単にショーバイだけのために情報を悪用する人たちがあることも、やはり、EBNの正しい普及を妨げる大きな要因となっている。

研究結果があるだけでは「エビデンス」とはいえない!

専門家ではない人たちにとっての「エビデンス」の理解に大きな勘違いがあるので、それをご紹介しよう。それは「研究結果がありさえすれば『エビデンス』といっていいわけではない」ということ。抽象的な例えではわかりにくいので、具体例を提示して説明しよう。

読者のビジネスパーソンは「牛乳害悪説」なるものを耳にしたことがあるだろう。例えばその「エビデンス」として、「牛乳をたくさん飲むとカルシウムの過剰摂取により骨折のリスクが高まる」という研究論文があるとする【※1】。仮にこの研究が非科学的な論文ではないとしても、1つの研究論文だけを示して、「牛乳をたくさん飲むと骨折のリスクが高まるということにはエビデンスがある」といってはならない。1つの研究結果だけではエビデンスとはならないのだ。

骨折予防のメカニズムは、単にカルシウムの摂取量だけではなく、タンパク質やビタミンDの摂取量・運動量・太陽に当たる時間など、多くの要素が複雑に関係している。カルシウムの摂取量との関連だけをみても、世界中にはその研究が山ほどある。

「それらの多くの研究論文ではどうなっているのか」を調べなければならない。山ほどある研究をつぶさに調べると、カルシウムの摂取量は骨折のリスクを「上げる」「下げない」「少し下げる」「明らかに下げる」「大いに下げる」など、いろいろと見つかることだろう。中には「どちらともいえない」という論文もたくさんある。

それぞれの論文は「どういう研究手法で行なわれたか」「どのくらいの人数で行なわれたか」「どのくらいの期間で行なわれたか」「どういう条件下で行なわれたか」また、それその論文の「数はどのくらいあるか」等々をていねいに調べなければならない。この「関係する研究論文をすべて集めて検討する」ことをメタアナリシスと呼んでいる。

現時点では、「カルシウムの過剰摂取は骨折の原因とはならない」というのがメタアナリシスの結果である。かといって「カルシウムをたくさん摂取すると骨折の予防になる」ということもいえない。確実にいえることは「カルシウムの摂取量が少ないと骨折の率が高くなる」ということで、これが「エビデンス」である【※2】

このように、「エビデンスがある」ということをいおうとすると、かなり専門的な知識と複雑な調査が必要になる【※3】。そのあげく、得られる結論は「非断定的なもの」であることが多い。素人が求めるような「明快な結論」はあまり得られない。逆にいうと、「簡単に」「明確な」結論が示してあるものには「エビデンスが確かなものは少ない」と理解するほうがよさそうである。
 

【※1】https://www.bmj.com/content/349/bmj.g6015
【※2】Xu L, et al.does dietary calcium have a protective effect on bone fractures in women? A meta-analysis of observational studies.Br J Nutr 2004;91:625-34.
【※3】エビデンスに興味のある読者には『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(女子栄養大学出版部刊)を一読することを薦める。


  
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