2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年5月28日

 国際社会は、今回の新型コロナウイルスによるパンデミックへの対処ぶりを見て、中国共産党独裁体制の隠蔽、脅迫の体質を改めて認識させられた。それとは対照的に、台湾に根付いた民主主義下での透明性と説明責任のある統治は、中国と異なる台湾の存在を明確に印象付ける結果をもたらした。

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 中国大陸との間で貿易、投資、旅行者、留学生交換など多くの面で近い関係にある台湾において感染者数、死者数が極めて低いレベルに抑制されていることは、台湾での対応が見事なまでに的確かつ効率的であったことを示している。

 台湾当局の対処ぶりについては、いくつかの特徴のなかでも、きわめて初期の段階において中国との人的交流を遮断したことが特筆されよう。中国から台湾への入国者を全面的に禁止し、同時に、中国滞在の個々の台湾人の帰国を制限し、台湾指定の飛行機を派遣し、受け入れた。また人的隔離政策を徹底させ違反者には罰金を科した。陳時中保健大臣は頻繁に記者会見し、きわめて懇切丁寧に感染状況などを市民に説明した。これら台湾における対処ぶりは、武漢において初期段階での隠蔽工作などに警鐘を鳴らした中国人医師たちを摘発した中国共産党政権とは全く異なったアプローチであったといえる。

 台湾はWHOに対し、すでに昨年12月31日の段階で、武漢において感染者が出ているという情報を通報し、関連情報の共有を希望するとの連絡をおこなったが、WHOはこれを無視し、「習近平体制下の中国はよく感染拡大を防ぐため尽力している」と述べた。

 中国は、感染の世界的拡大は中国から始まったにもかかわらず、ウィルス抑制の成果を誇示している。とりわけ初期の情報開示に問題があったことは歴然としているにもかかわらず、自らを被害者であるとの姿勢を貫き、反省の色を一切見せないばかりか、情報戦を行う構えを見せ、「マスク外交」を展開しつつある。中国に新型コロナウイルスの発生源についての透明性などを求める国に対しては、経済的不利益を示唆するなど恫喝的言辞を投げかけたりもしている。

 新型コロナ、SARSなどの対処に当たって、優れた知識と経験を有する台湾がWHOのメンバーになる資格を有することは今更強調する必要もないだろう。日本としては、従来一貫して、台湾のWHO加盟を支持しているが、具体的にこれを進めるための支援が期待されている。今回のパンデミックの拡大のなかで、WHOがいかに偏向しているかが明白になった。WHOの組織の在り方を見直すことに絡めて、台湾のメンバー加入の問題を見直すことが喫緊の課題となってきたといえよう。5月18日から開かれたテレビ会議方式でのWHO総会にも、各国からの台湾のオブザーバー参加の要請にもかかわらず、結局、台湾は招待されなかった。なお、馬英九・国民党政権時代には、WHOはあらかじめ中国の了承を得た上であろうが、WHO総会へのオブザーバーとして台湾の参加を認めたことがあるが、蔡英文・民進党政権になってこの方式もとりやめた。当時のWHO事務局長は、香港出身のマーガレット・チャンである。

 さらに、WHO加盟に加え、自由・民主主義体制下にある台湾を環太平洋経済連携協定(TPP)の一員として参加させるということは、日本をはじめTPPメンバー国が直面する次なる課題であろう。台湾がアジア・太平洋において占める地政学上の位置、台湾経済のもつ重要性、そしてなりよりも自由で民主的な政治体制からみて、台湾はTPPの一員になるにふさわしい条件をすべて整えている。日本とTPPのこれまでの関与ぶりから見て、日本としては台湾の加盟を支持するうえで主導的役割を果たすことが期待される。

 ワシントンポスト紙コラムニストのロウギンは、5月7日付けの論説‘The pandemic shows why Taiwan is a far better partner than the People’s Republic’において、「今回のパンデミックは中国が全く信用できないパートナーであることを強く示した。われわれは、代わりとなる『中国モデル』(つまり、台湾)があることを認める時期だ」と指摘している。このロウギンの指摘は、決して言い過ぎではない。 

  
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