異なる段階に来た中国外交の行方
全精力が注がれ展開される新たな中国のパブリック・ディプロマシーであるが、これまでとは異なり、成果をあげるどころか、むしろ逆効果を生んでいる。これまで中国に強い態度を示してこなかった欧州の一部地域やアフリカ等も、対中不信を示すようになり、各国の外務省が中国大使を呼びだし説明を求める事態にまで発展している。中国に対して融和的な態度をとってきたフランスも、在仏中国大使館が公式ホームページやツイッター等で新型コロナウイルスをめぐる欧米の対応を強く批判する内容の文章を相次いで発信していたことを受け、フランス外務省が中国大使を呼び出し抗議した。
また、アフリカ諸国の外務省も、新型コロナウイルスに関連して中国に滞在するアフリカ出身者に対する差別が深刻化した問題で、中国大使にそれぞれ説明を求めてきた。アフリカは、中国からの経済支援を受けており、またビジネス面でも中国語需要が高まり、孔子学院需要も拡大していた地域であるが、そのアフリカ諸国でさえ中国に対する不信感を高めているのである。
しかし、こうした各国からの対中不信が増大し、明示的に中国に対し反発を示すようになったとしても、習近平政権は国内における自らの権威とイメージ回復のために好戦的な対外発信を止めることはないと考えられる。一方で、それと並行して、国際社会における支持を拡大するための経済協力やソフトパワー外交等を実施することも諦めないだろう。
好戦的な姿勢を強めるに至った中国は、自分のやり方が間違っていると認めることはできず、米国の対中対決姿勢には強硬策で対応するしかないと考えている。ソフトパワーを重視した中国のパブリック・ディプロマシーの時代は、米中関係が対話を重視し、協調を模索する時代でもあった。それが、今では、中国は対話・協調路線ではなく、自己の正当性を強調し自国の主張に対する支持を他国に強制するという新たな外交方針に転換したわけであり、以前とは異なる段階に来たといえよう。
中国が自らの外交を、これまでのしたたかな、ソフトパワー重視の戦略に戻す日が来るかどうか、それはこの戦狼プロパガンダ外交が大きな失敗だと痛感する日が訪れるかどうかにかかっている。しかし、権威の低下を恐れ、失敗を認められない習近平指導部の下では、その可能性は低いといえよう。
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