2024年4月20日(土)

世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2020年6月16日

コロナ危機で中国の「ツイプロマシー」が一気に加速

 主にトランプ大統領が自身のツイッターアカウントで世界に向けて政治的発言を発信していることから、「ツイプロマシー」(ツイッター外交)と呼ばれるようになった。中国外交部の中には以前からツイッターアカウントを持っていた者もいるが、最近になって中国もこの「ツイプロマシー」を積極的に展開し始めるようになっている。中国は中国版ツイッターのウェイボではなく、米国のツイッター社のサービスを活用しているのだ。

 中国外交部は、5月9日、新型コロナウイルスをめぐり米国政治家らが挙げている主張に反論する、30ページ、11,000ワードにも及ぶ報告書を発表した。報告書は「中国、新型コロナで米国の24のうそに反論」と題され、米国の「中国に対するうそ」に対し中国が主張する「事実・真相」を列挙している。中国の主張はいずれもトランプ大統領とポンペオ国務長官の主張に反論する内容である。

 なかでもポイントとなっているのが、中国の対外発信の即時性と透明性を強調する点である。中国の情報発信は「いち早く」「迅速」だったとし、情報開示は「オープン」かつ「透明」であると繰り返し主張している。いずれも欧米をはじめ世界中から、「中国はウイルス感染に関する情報を隠し、発表も遅らせた」と非難され、中国に対するイメージの低下を招いたことへの反撃である。中国はこうした「誤った認識」を改めるためのキーワードを散りばめ、「中国は最短で最も厳格な予防抑制措置を取り、感染を主に武漢で抑え込んだ」と習主席の主張を展開する内容となっている。そのほかには、ウイルスは人為的につくりだされたものではなく、武漢ウイルス研究所からの事故で漏出した証拠もなく、また李文亮医師についても触れ「(同氏は)内部告発者ではないし、逮捕されていない」などとしている。

 これは華春瑩報道官らのツイッターで発信され、中国の在外公館や外交官もツイッターで拡散した。駐日中国大使館では、同報告書の全文を日本語に翻訳し、ホームページに掲載、ツイッターでも発信した。

 中国は近年ツイッターの発信力と、それが世界の世論に与える影響力に価値を見出し、外交戦略の一手法をとして取り入れていると考えられる。中国外交部は2019年10月にツイッターアカウントを立ち上げたばかりで、それと時を同じくして華春瑩報道官のツイッターアカウントも開設された。日本からの支援物資が送られたことに対して、日本語で感謝をツイートしたり、米国務省のオータガス報道官とコロナの対応をめぐりツイッター上で応酬したりと、女性報道官だけに何かと注目を集めた人物である。

 また、趙立堅報道官は2010年からツイッターを利用しているようだが、今ではウイルスの発生源等をめぐり米国とツイッター上で論争を展開し中国の主張を拡散させ、歯に衣着せぬ発言を繰り返し、別名「戦狼外交官」として名を馳せた人物である。華報道官のツイッターは52万超、趙報道官は66万超のフォロワーを持つ(2020年6月9日時点)。

 BBCによれば、昨年末には55の中国の外交官や大使館、領事館のツイッターアカウントが確認されており、そのうち32は昨年開設された。また、NHKは、これらツイッターアカウントは2018年10月時点でわずか17だったが、今年3月には127に急増したと報じている。

国営メディア・関係者個人による発信の影響力も少なくない

 中国国営メディアもツイッターを通して英語で世界中に情報発信するようになっており、フォロワー数の多さには目を見張るものがある。2020年6月9日時点で、中国中央電視台の国際ニュース放送チャンネル、CGTNのフォロワーは1394万超で、米国主要メディアと比較しても決して少ない数字ではない。例えばCNNは5798万超と群を抜いているが、その他のABCニュースは1570万超、FOXニュースは1930万超、CNBCは365万超となっている。一方、日本のNHKの国際放送であるNHK Worldのフォロワーは約7.4万と大きく引き離されている。

 新華社通信も、ツイッターフォロワー数は1268万を超え、チャイナ・デイリーは437万、人民日報は711万、環球時報(グローバルタイムズ)は176万超と、中国国営メディア総出でツイッターを通じて英語で発信している。これらの中には日本語発信専用のアカウントも別に保持しているものもある。

 中国メディア関係者個人の影響力も少なくない。環球時報編集長の胡锡进もその一人だ。同氏のツイッターアカウントは、31万人以上のフォロワーを抱え(2020年6月9日時点)、全て英語で発信している。全人代で「香港国家安全法」を制定すると発表された5月22日、米国が対中非難を行ったことについて、胡編集長は「香港は米国のものではない。トランプ大統領の孫娘でもわかる常識だ」とトランプ政権を批判し、さらにポンペオ国務長官が、同法は香港の自治にとって「死を告げる鐘」になると非難したことに対し、「『死を告げる鐘』は米国の香港への介入だ」とポンペオ氏を名指しで批判した。

 これらのアカウントが発する内容すべてが欧米批判というわけではないが、中国の主張や正当性を喧伝する姿勢はいずれにも共通しており、世論づくりという点において、影響力は少なくないと考えられる。


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