2024年12月10日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月25日

 7月1日、NAFTA(北米自由貿易協定)に代わるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)が発効した。米国、メキシコ、カナダの3か国が、新たに北米のサプライチェーンの拡大に向け、一歩を踏み出した模様だ。

Waldemarus / iStock / Getty Images Plus

 このUSMCAについて、オバマ政権時代の高官のRobert Jacobson元駐メキシコ米国大使及びTom Wyler元商務長官補佐官が、米国はサプライチェーンを中国に依存せず、競争力を高めるために北米市場の統合を進めるべきで、そのためにはカナダ、メキシコとの信頼関係の再構築が不可欠であると、7月31日付のForeign Affairsに投稿している。

 対メキシコ、カナダ関係は、トランプ外交のいくつもの失敗の中でももっとも米国の利益を損なったものの1つであると言える。

 記事の筆者は、USMCA(米墨貿加自由貿易協定)には問題もあるが、北米市場統合の枠組みとして活用される事を期待している。

 しかし、USMCA自体、NAFTAを時代の進展に合わせたという面とTPP(環太平洋連携協定)を取り込んだという面に加えて、米国第一主義によるプラスアルファから構成されており、看板の付け替えに近いものであるが、このプラスアルファの部分が問題である。

 USMCAの厳しくかつ複雑な原産地規則、車1台当たり時給16ドル以上での工場で生産された部品が40%を占めること等、メキシコに進出した自動車や自動車部品の工場を米国へ移転させる圧力となる規定は、多少の工場移転や米国への投資増を実現するかもしれないが、結局は、米国で高コストで生産することとなり、北米全体の競争力を弱める結果となる。

 従って、USMCAの経済効果はあまり期待が持てないが、少なくとも、これで懸案決着し予見可能性が高まったという点では評価できるはずである。しかし、トランプがいる限り、何をするかわからないという不安感が拭えず、新規投資や経営判断は11月の選挙待ちという状況ではないかと思われる。

 Foreign Affairsの記事の筆者が提言するように、中国に対抗するために北米市場統合の更なる深化が必要であるとの指摘は興味深い。特に、国境インフラの整備や治安に関する合同委員会のようなものができれば、信頼関係回復の大きな前進となり、市場統合のコミットメント活性化にもつながるであろう。

 仮に民主党政権となった場合には、ほぼ自動的にカナダ、メキシコとの関係は改善に向かうであろうが、新政権の下でこのような構想が活かされるのかは不明である。USMCAについては最後の段階で協定の運用について労組の主張を受けた民主党の意向が通ったということになっていてバイデンも支持したが、どこまでプロ・ビジネスの立場からの市場統合に熱心かには疑問もある。

 むしろ、中国に対抗する手段としては、トランプ外交の否定とオバマ外交の復活という意味も含めて、北米市場の統合よりはTPPへの復帰交渉を優先するのではないかとも思われる。その場合に、TPPの原産地規則はUSMCAよりも10~20%は低いが、米墨間においてTPPがどのように適用されるのか気になるところである。何らかの形でUSMCAと復活するTPPが連動できるのであれば、北米市場の競争力もさらに強化される可能性があるのではないだろうか。

  
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