見せかけの改革を断行
奇妙なことが行われるもう一つの要因は、何か新しいことをしたがることにある。エコノミストは、「成長戦略」や「構造改革」が好きだが、具体的に何をして、効果がどれほどなのか、明らかになることは少ない。
01年のことだが、テレビの経済討論番組で、ある有名エコノミストが「なぜ政府は小手先の景気対策ばかりで抜本的な構造改革をやろうとしないのか」と当時、自民党政調会長だった亀井静香氏に迫ったのに対し、亀井氏は、「それではあなたのいう構造改革とはいったい何なのか」と切り返したことがある。このエコノミストは、何も答えることができなかった(野口旭・田中秀臣共著『構造改革論の誤解』東洋経済新報社、01年)。
あれから20年近くたっているのに、構造改革論のエコノミストのほとんどは、具体的なことは何も答えていない。
私が説得的だと思った数少ない構造改革論は、「生産性や賃金が低い地域の振興、中小企業や低生産性企業の底上げといったタイプの政策は経済全体の人口移動のダイナミズムや市場の新陳代謝機能を弱め、日本全体の生産性を引き上げる上ではマイナスに働く」というものである(森川正之著『生産性 誤解と真実』日本経済新聞出版社、18年)。税理士に聞くと、「中小企業が発展しないのは、発展すると損するような制度があるからだ」と言う。例えば、利益が800万円以上になると法人税率が上がるので、抑えたり会社を分割したりすることがなされている。利益を伸ばさない方がよいと言っているようなものだ。利益を抑えれば発展はしない。発展を抑制された中小企業の生産性は低下する。
生産性の低い企業を退出させれば残りは生産性の高い企業になるから、日本全体で生産性が高まる。正しいと思うが、自民党から共産党まで中小企業保護を唱えるのだから実行は難しい。
マイナンバーは社会保障・税番号制度として確立し、キャッシュレスはその便利さと費用の綱引きで進めばよい。費用の面で、競争が不十分で高止まっている可能性があるので、そこは政府の出番があるかもしれない。肝心なことができないのに、見せかけの「改革」や思い付きはいくらでもする。だが、政策に思い付きは必要なく、やるべきことを着実に行っていくことが必要だ。
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