立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2020年10月9日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

中国ビジネスのために、中国と棲み分けする

 ここまで言ったら、トランプがまるで正義の神のように見えてしまう。はたしてそうなのか。いやいや、それはちょっと違う。トランプは商売人だから、利益を考えるだろう。ただ彼が考えているのは、目先でなく、長期利益である。中国との取引ルールを元通りに戻すことだ。自由主義諸国の本来のルールに戻るまでは、中国との取引を一旦中止するという経過措置を、トランプが取ろうとしたのである。

 中国は大きな市場である。放棄すべきではない。ただ目先の利益だけを追求すると、本質を見失う。持続可能な、長期的恒久的な利益の獲得を担保するルールが毀損し、崩壊すれば、利益総量レベルでは大きな損失となる。

 トランプは商売人だ。彼が目指しているのは神聖なる正義よりも、単なる「未来志向の商売」にすぎない。中国市場や中国ビジネスでもっともっと大きな利益を生み出すために、今は一時的に取引中止をし、ルール問題を先に解決しようということだ。ルールを制する者がゲーム(市場)を制す。

 この法則を理解すれば、「9割味噌1割クソ」における「量」と「質」の関係もはっきりするだろう。中国が狙っているのは、味噌クソ割合の多寡よりも、味噌クソの抱き合わせ取引という中国ルールの設置である。目先の利益という「量」に目を奪われ、「質」の変化を見落としたり、見ようとしなかったりするのが資本主義下の利益近視眼症候群である。中国は資本主義の「量的」弱みを利用し、「質的」変化を狙っている。無論、最終的な目標は、「ルールを制する(質)者がゲーム(量)を制す」という法則の適用にほかならない。

 最後に、中西氏の「自業自得論」について補足させてもらいたい。実はそのオリジナルは、中西氏ではない。中国共産党機関紙人民日報傘下の環球時報の胡錫進編集長は早くも10月2日、ツイッターに評論を投稿し、「トランプ氏は新型コロナを軽視してきた。その代償を支払うことになった」と痛烈に批判した。まさに「自業自得論」の元祖版であった。

 放火犯が被害者の防火措置の不備を批判し、世間の注意を逸らす。いささか「中国流」的な手法であって、性善説の日本人はたびたび気付かずに口車に乗せられてしまう。注意が必要だ。

  
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