2024年11月23日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2020年10月14日

中国は米軍を中国に近づかせない実力を持っている

 2001年に起きたアメリカ同時多発テロをきっかけに、アメリカの安全保障政策が対テロ戦争へとシフトし、中国の脅威を見過ごしてきたと本書は指摘する。一方で、中国は1991年の湾岸戦争でアメリカ軍の圧倒的な攻撃力を目の当たりにして、相手の攻撃力を封じることによって、巨大な敵に打ち勝つ戦略を模索してきた。太平洋上のできるだけ遠いところでアメリカ軍をとらえるレーダーを開発したり、空母を破壊する長距離ミサイルを開発したりしてきた。アメリカ軍が中国にたどり着く前に、アメリカ軍の巨大なプラットフォーム(空母など)を破壊し、その戦闘能力をそぎ落とす実力を中国はすでに持っているという。中国の戦略を本書は次のように的確に述べている。

 China built advanced aircraft, electronic attack and cyber capabilities, and more precise weapons, including antisatellite missiles, to counter the US military's ability to collect intelligence, communicate information, and command and control its forces in combat. This was all part of a broader warfighting doctrine that Chinese military officials ultimately called “systems destruction warfare.” The simple idea was that the US giant could not move or fight if it were deaf, dumb, and blind.

 「中国は最先端の戦闘機や電子・サイバー攻撃の能力、人工衛星を撃墜するミサイルなど命中精度を高めた兵器をつくってきた。アメリカ軍の諜報能力やデータ交信機能、戦場で部隊を指揮統制する能力を封じるためだ。これが、中国軍の高官たちが最終的に『システム分断交戦』と呼ぶ戦闘に関する大きな原則の柱だった。アメリカという巨人も、耳が聞こえず、口もきけず、目も見えなければ、動いたり戦ったりはできない、というシンプルな発想だった」

 1996年に中国が台湾への圧力を高めるためミサイル演習をした台湾海峡危機では、アメリカのクリントン政権は台湾海峡に航空母艦を派遣し、中国の動きを封じ込めた。しかし、今ではアメリカ軍にはそのような実力はないと本書は主張する。

 It is unlikely, for example, that a US president would send an aircraft carrier through the Taiwan Strait in a significant crisis with China the way President Bill Clinton did in 1996. US carriers would probably not even operate within a thousand miles of the Chinese coast in the event of a conflict.

 「例えば、台湾海峡で中国と深刻な衝突が生じた場合、アメリカの大統領はもはや航空母艦を送り込めそうもない。少なくとも、ビル・クリントンが1996年にやったのと同じようには空母を派遣できないだろう。何らかの紛争がおきた時には、アメリカの空母はおそらく中国の沿岸1000マイル以内には近づかないだろう」

 本書はアメリカ軍のデジタル化の遅れを、いろいろ実例をあげて説明しており驚きの連続だ。例えば、筆者がアメリカ軍の知人からかつて聞いた話によれば、収集したデータをもとに攻撃目標の具体的な位置を特定するのに、最終的にはグーグルマップを使っていたという。F22戦闘機とF35A戦闘機は同じ会社が製造したものなのに、攻撃目標に関するデータや互いの位置情報を直接やり取りできない。人間が無線で口頭でやりとりするしかない。


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