いよいよ大統領選挙が迫ってきたが、米国の選挙は周知のとおり選挙人制度によって行われる。各州に代表選挙人が定められており、得票数の多い党に選挙人すべてが投票する州もあれば、得票割合に応じて割り振られる州もある。
しかし、米国では民主党支持、共和党支持の州はある程度固定されており、その数は総選挙人が538人に対し、毎回およそ200人ずつに分かれている。つまり選挙を決定するのはスイングステート(選挙結果に変化がある、民主党の青と共和党の赤を混ぜたパープル・ステートとも呼ばれる州)の138人、ということになる。
スイングステートに属するのはコロラド、フロリダ、ペンシルバニア、アイオワ、ネバダ、ニューハンプシャー、ニューメキシコ、オハイオ、バージニア、ミシガン、ノースカロライナで、これまでの選挙ではこれらの州を制した候補者が勝つ、というのが普通だ。
そもそも選挙人制度とは、1787年の合衆国憲法制定時に導入された非常に古い制度だ。当時は識字率が低く、テレビなどのメディアもなかったため、一般の人々が大統領候補の主張を理解するのが難しかった。そのため地域の名士、知識人などがあらかじめ選ばれ、彼らの判断に託す、というのが目的だった。
当初から直接選挙を求める声もあったのだが、それが不可能だったのは奴隷制度が存在したためだ。奴隷の数が多かった南部の州ではその分選挙権を持つ白人の数が少なく、選挙の際に不利になる、という主張があった。
これを解決するため、奴隷を3/5人として頭数に加え、その総人口に応じて選挙人を割り振る、というシステムが作られた。それが現在にも継続して使われているのだが、人口対選挙人の比率に関しては州間での不公平感がある。
最も選挙人が多いのはカリフォルニア(55人)、続いてテキサス(38人)、ニューヨーク(29人)、フロリダ(29人)、イリノイ(20人)、ペンシルバニア(20人)だ。しかし人口比で考えると、人口が少なく選挙人も少ない州の方が、選挙人1人が代表する州民の数も少ない。例えばワイオミング州では1人の選挙人が代表する州民は18万人程度なのに対し、テキサスでは70万人強となる。
このため、総得票数の多い候補が選挙人数では少なくなり、選挙の結果も敗北、というケースが度々起こる。2000年のジョージ・W・ブッシュ対アル・ゴアでは最終的に最高裁が決定を下す事態となり、総得票数の多かったゴア氏が敗北した。そして4年前の選挙でも、総得票数が多かったヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに敗北した。
こうした事態に、不満を持つ人々は少なくない。米国にはフェアボートという非営利組織があり、選挙制度の是正を訴えている。人口対選挙人の比率の問題だけではなく、州によって得票の多い方が総取りだったり比率配分となる違いについても疑問の声が挙がっている。
特に人口の多いカリフォルニア、ニューヨークの人々にとっては非常に深刻な問題だ。この2つの州は民主党の岩盤支持州であり、もし人口に対する選挙人数が是正された場合、米国では何度大統領選挙をしても民主党が勝つ可能性まで指摘される。前回の選挙でもクリントン敗北に対するこの2つの州の落胆は激しく、カリフォルニアでは合衆国からの独立運動が再燃したほどだ。
そして、黒人の権利運動が盛り上がっている現在、選挙人制度の歴史を見ればその根底に差別があるのは明らかで、選挙制度そのものを見直そう、という声が出るのも当然だ。