2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月3日

 トランプ政権からバイデン政権に代わると、何が「バイデン外交」の柱となるであろうか。シンク・タンクNew AmericaのCEOで、ヒラリー・クリントンが国務長官の時代に政策企画部長も務めたアン・マリー・スローターは、フィナンシャル・タイムズに10月20日付けで‘The three pillars of US foreign policy under Biden’と題する一文を寄稿し、「彼の外交政策の柱は3つのDで捉えることが出来る」と述べている。3つのDというのは、Domestic(国内)、Deterrence(抑止)、Democracy(民主主義)である。バイデン政権における外交政策の特質を的確に言い当てているように思われる。論説は、トランプ政権からスタイルは劇的に変化するが、行動が完全に変わる訳ではないとも指摘しているが、それもその通りであろう。

Anson_iStock / Eskemar / iStock / Getty Images Plus

 第1の柱とされる「国内」について、スローターは、バイデン政権にとって、焦点はまずは国内にあり、米国を再生させるための投資に焦点を当てると指摘する。これはトランプ政権の考え方と通じる面もあるが、それはそれで構わないであろう。というのは、中国に技術覇権を許さない強い米国が必要だからである。スローターは、さらに、バイデンは国内に投資し世界経済で成功する用意が出来るまでは新たな貿易協定は一切結ばず、TPPに回帰する積りもなさそうである、と言う。そこまで言い切ることに合理的根拠があるようには思えないが、ともあれ米国に政策を見直す時間を与えることは必要であろう。

 2番目の柱とされる「抑止」については、バイデン政権の国防長官候補の筆頭とも目されているミシェル・フロノイ元国防次官が、Foreign Affairs(電子版)6月18日付けの論説‘How to Prevent a War in Asia’で「中国に対する信頼性のある抑止を再構築する」ための措置を既に提示している。フロノイが最も懸念するのは中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」能力である。それは米軍のロジスティックス、部隊、基地への精密攻撃、更には戦闘管理ネットワークのデジタルのシステムに対するサイバー攻撃から成り、米国が東アジアに軍事力を投射することを妨げるように工夫されている。その結果、衝突に際して米国が海、空、宇宙で迅速に優位を確立することは最早期待出来ないとして、フロノイはこれに対抗するために米国が新たな技術に投資することを提言している。

 3番目の柱は民主主義である。幾多の世界的な問題に向き合うに際し、バイデンは民主主義を基準として有志の諸国を選別し糾合したい意向のようである。スローターの論説には、価値に基礎を置く外交になるとの言及もある。つまり、民主主義といってもインドやブラジルまでも考えている訳ではない。バイデンは「民主主義の首脳会議」あるいは「民主主義連盟」を提唱しているが、それは欧州、日本、韓国、豪州、NZのような伝統的な同盟国とのグループであるらしい。トランプ政権とは趣を異にして、中国やロシアの人権抑圧へ協調して厳しく対応することを求めるであろう。この点については我が国も注意を要するだろう。

 ともかく、中国とロシアによる法の支配と人権を無視した行動および力による現状の変更の試みに毅然と対応すること、1979年のイラン大使館人質事件の怨念を脱却しもう少し平静で戦略的な対イラン政策を築くこと、そしてWTOを無用の存在とする政策を止めその改革を実現して再生させること、この3つをバイデン政権がやってくれれば、世の中は随分と落ち着きを取り戻すのではないだろうか。
                                    
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