世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月12日

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 米国では、過去2年間の米国のイランに対する制裁は米国にイランに対する重要な梃子を与えたとの考えも小さくないが、果たしてその見方は正確なのか。米テキサスA&M大学のMoh a mmad Ayatollahi Tabaar准教授は、Foreign Affairs誌ウェブサイトに10月20日付けで掲載された論説‘No Matter Who Is U.S. President, Iran Will Drive a Harder Bargain Than Before’において、イランの政治状況は地殻変動的変化を遂げ、かつ中ロとの関係を強化しており、米国にとって手ごわい交渉相手となるだろうと指摘している。

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 上記論説によれば、イラン政治の地殻変動というのは、ホメイニの死んだ1989年から30年間にわたり派閥政治が外交を一貫性のないものししてきたが、それが今や強い一貫性のあるものとなったということである。地殻変動をもたらしたのは、2020年1月の米国によるソレイマニ司令官殺害、そして、米国による対イラン制裁である。地殻変動的変化の結果、イランには新しい力の源泉があり、国内的には革命防衛隊を陣頭とする団結を示し、対外的には中ロとの関係を強化しているとのことである。

 地殻変動をもたらした原因の一つがソレイマニの死であったといっているのは、ソレイマニの暗殺がイランにとっていかに大きい影響を与えたかを示すものである。カセム・ソレイマニはイラン革命防衛隊のエリート部隊「コッズ部隊」の司令官で、イランの地域における影響力の増大に重要な「シーア派三日月地帯」制覇計画の実施者と言われている。同時にイラクで米軍や連合軍の兵士の命を奪った武器、爆発物や軍需物資を調達したと言われる。

 これまではイランでは派閥政治がはびこっていた。20世紀中は保守派と改革派の対立があり、1997年の大統領選挙でハタミが当選し、改革派の政治が行われた。2005年の選挙ではアフマディネジャドが大統領に当選して保守強硬派の政治を行い、2013年に保守穏健派のロウハニが大統領に選出された。つまり最近は保守強硬派と保守穏健派の間の争いになっている。それが今や革命防衛隊を陣頭として団結しているというので大きな変化である。

 対外的な新しい力の源泉は中ロとの関係の強化である。中ロがイランの戦略的同盟国になったわけではないが、反米で利害を共にし、イランの石油を買ってくれることで経済的利益を期待しているのだろう。

 このような変化をもたらしたのは米国のイランに対する制裁である。トランプ大統領はイラン核合意から離脱し、イランに対し「最大限の圧力」を加えるべく努めてきた。トランプの狙いはイランがイランにとってより制約的な新しい合意を達成することと言われており、ポンペオ国務長官はさらにイランの「レジーム・チェンジ」を狙っていたとも伝えられているが、その目的が達せられないのみならず、イランに新しい力の源泉を与える結果になってしまっている。イランに対する制裁は米国の外交的な失敗と言わざるを得ない。

 イランは米国による制裁で経済が疲弊し、国難を迎えたが、いまや国内的にも対外的にも体制を固め、以前ほど米国の制裁の解除を必要としなくなってきているようである。11月の米大統領選挙いかんに拘わらず、イランとの交渉はテーブルに上がるであろう。しかし、イランは以前のように制裁の解除を切望しているわけではなく、余裕をもって交渉に臨むものと思われる。米国の次期大統領はイランの状況が変り、米国が以前のようにイランに対して梃子をもっていないことを認識して交渉に臨む必要に迫られることになろう。

  
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