2024年4月19日(金)

ザ・移動革命

2020年11月10日

“全機開発”の何が問題だったのか?

 防衛機の場合、防衛省が開発予算を提供し、安全面・機能面を含めた仕様の決定と審査を行い、ユーザーとして調達、運用を行う。そのため開発リスクや量産リスクは防衛省が取ることになる。

 一方、民間機の場合、開発予算を獲得し、安全面・機能面での仕様を決定するのは機体メーカーであり、開発リスク、量産リスクはメーカーが取ることになる。耐空性という飛行機として問題ないことの審査は開発国の航空局が行い、型式証明が発行されると他国と相互承認することでアメリカなどでも飛行が認められるようになる。メーカーとして審査をパスできる能力を有しているのはもちろんのこと、型式証明取得後にメンテナンスなどの体制を敷くのもメーカーの責務になる。 

 つまり全機開発といっても防衛機と民間機では全く異なり、民間機の場合は"機体メーカー"として相当なリスクが発生し、事業として行うために必要となる資金、ノウハウ、体制の規模がはるかに大きいのだ。

 これに加えて巨大サプライヤーの存在がある。近年、電子化、電動化の進展やそれに伴う開発費の上昇などによって世界の航空機産業ではサプライヤーの水平統合が進んでいる。例えばレイセオンテクノロジーズ(旧UTC)という企業は、M&Aを繰り返した結果として航空機エンジン、アビオニクス、電力システム、機内システムなど航空機に関するあらゆる部品を供給している。胴体や翼以外の部分を全て彼らに依存すれば航空機全体が完成してしまうのではないかと思えるくらいの巨大サプライヤーだ。

(出典:経済産業省航空機武器宇宙産業課資料(2013年当時作成)) 写真を拡大

 しかし、型式証明を取得し完成機を市場に送り出す機体メーカーとしては、巨大サプライヤーの提案通りにシステムを設計すれば良いのではなく、自ら機体やシステムの設計思想を持ち、その設計思想に合致するようサプライヤーを選定し、開発プロセスをコントロールする必要がある。

 日本の航空機産業界のトップである三菱重工業であっても、50年間民間機の開発経験がなかったことが災いし、自力で巨大サプライヤーをコントロールできる機体メーカーになることが難しかったのだろう。ここ数年間は元ボンバルディアや元ボーイングなどの外国人OBを迎えて開発体制を強化していたが、時間的にも体力的にも限界が来たことで今回の開発凍結に至ったというのが真相ではないだろうか。

 では、開発凍結によって日本の航空機産業はどうなってしまうのか。影響は航空機産業にとどまらず国やエアライン業界にも及ぶと思われるが、想定しうるインパクトについては後編で述べることとしたい。

(つづく)

  
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