2024年12月11日(水)

ベストセラーで読むアメリカ

2020年11月25日

本当に弱者に寄り添う政治家と言えるのか?

 ハリスがサンフランシスコ地区検事を務めたころは実は、カトリック教会による児童虐待が社会的な問題になっていた時期に重なる。ハリウッド映画『スポットライト 世紀のスクープ』が描いたように、アメリカのボストン・グローブ紙が、聖職者による性犯罪の組織的な隠ぺいを暴露し、アメリカ全土で同様の被害を訴える動きが広がった。アメリカの他の地区や都市では、聖職者たちを訴追する動きが相次いだ。なのにハリスだけは一件も起訴していないという。教会が事件を隠ぺいしていたことを示す証拠書類なども、被害者団体の訴えにも関わらず、ハリスは非公開とし闇に葬りさったという。

 これで本当に弱者に寄り添う政治家と言えるのか、と疑問を投げかけているわけだ。本書はさらに、ハリスがカトリック教会の責任を追及するのに及び腰なのは、カトリック教会の関係者から多くの政治献金を受け取っているからだ、と結論づけている。公正を期すために、本コラムの評者としての意見を記すと、本書が指摘するような事象は存在するのかもしれないが、本当に献金と刑事訴追見送りの間に因果関係があるのかどうかまでは、説得力をもって示せていないと感じた。

 公共工事で品質不良のコンクリートを納品した業者の罪が軽くすんだのは、その業者がブラウンの後援者だったことにハリスが配慮したからだ。特定の会社の不正を追及するのにハリスが消極的だったのは、そうした会社がハリスの夫が勤める法律事務所のクライアントだったからだ――などなど、本書はハリスの職権乱用疑惑を並べ立てる。しかし、これらも同様に、個々のケースについて実際に、ハリスが不正の見逃しに介入したことを本書は立証しきれていないと思う。

 本書は一方的なネガティブ・キャンペーンを展開することを目的にしており、ダーティーなイメージを植え付けたり、疑惑を生み出したりできれば大成功である。しかも、本書はベストセラーにもなった。トランプを支持する人たちを中心に多くのアメリカ人が、ハリス次期副大統領のリーダーとしての資質に疑念の目を向けているはずだ。

 バイデン次期大統領が高齢なだけに、万が一の場合や、4年後の大統領選に出馬する可能性を考えると、カマラ・ハリスの存在感は大きくならざるを得ない。ハリス次期副大統領とは本当はどんな人物なのか。ハリス自身の言動と、反リベラル勢からのネガティブキャンペーンの行方から目が離せない。

  
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