2022年8月10日(水)

WEDGE REPORT

2020年12月3日

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金子熊夫 (かねこ・くまお)

外交評論家・元外交官

1937年生まれ。ハーバード大学法科大学院卒。外務省で初代原子力課長、国連環境計画アジア太平洋地域代表などを歴任。退官後、東海大学教授(国際政治学)。現在、エネルギー戦略研究会会長を務める。主著に『小池・小泉「脱原発」のウソ』(飛鳥新社)、「日本の核 アジアの核」(朝日新聞社)。
 

 

再エネと原子力は共存共栄できる

 再エネ推進は世界的な潮流であることは間違いない。日本も独自の戦略に基づき、再エネ推進に向けて、さまざまな試行錯誤をしていくべきは言うまでもないだろう。

 だが、すでに何度も指摘したように、日本では、地理的条件や発電量の安定性という観点から、現時点で再エネを主力電源にするには、心許ないというのが「偽らざる現実」である。国際連系線でつながれているドイツなどとは大いに状況が異なる。この「事実」は、重く受け止めなければならない。見たくない現実、知りたくない現実に蓋をし、再エネ派も政治家も、真正面から言わないが、この点はすべての国民が認識すべき日本の「弱点」である。従って、再エネ推進のみを突き進め、原子力を捨てるという選択肢は、島国・日本にとっては、ありえない選択肢である。

 だからといって、手放しに原子力を進めるべきというわけではない。

 冷静に考えて、あの悲惨な福島第一原発事故を経験した日本人にとって、既存の大型炉を新たに立地するとの従来の原発政策を受け入れることは困難であろう。「安全神話」が崩壊した現在、人々の原発恐怖症、不信感を取り除くことは並大抵のことではあるまい。

 八方塞がりの日本にとっての起死回生策はあるのだろうか。

 筆者はあると信じる。それは、従来の延長線上の議論ではなく、非連続な発想の転換、非連続な政策の立案・実行であろう。

 つまり、島国・日本にとって実現可能な太陽光や風力発電(洋上風力含む)、新技術を含めた地熱発電などの再エネは大いに推進するとの戦略目標を掲げて試行錯誤し、最大限努力すると同時に、例えば、既存の大型軽水炉に代わる新しい原子力発電のあり方の「絵図面」を示し、再エネと原子力の“共存共栄(WIN-WIN)”の関係の構築に向けた戦略的方法を議論し、実行していくということだ。

 従来のように、一方が他方を悪しざまに攻撃し、二項対立関係を深めるのは全く生産的ではない。所詮、地球上には完璧なエネルギーは存在せず、様々なエネルギー源が相補っていく以外にない。もちろん、再エネと原子力以外の様々なエネルギーも除外すべきではない。特定のエネルギーだけを選び、他を捨象するほどの贅沢は日本には許されないからだ。石炭さえも、石炭ガス化複合発電(IGCC)、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCSやCCUS)などの技術が実用化すれば、引き続き有用だ。「石炭は何が何でも全廃せよ」は一種の暴論だ。

原子力が変わったことを目に見える形で示せ

 今求められていることは、人々に「福島第一原発事故で日本の原子力は根本的に変わった」「安全性も十分で安心できる」と感じてもらえるように、目に見える形で「新しい原子力」の姿を示すことだ。

 筆者は技術の専門家ではないので、本稿では詳論できないが、少しだけ具体的に言えば、「スケールメリット」を追い求めた末の既存の大型軽水炉路線という選択肢に加えて、原発の小型モジュール化(SMR)、高温ガス炉(HTTR)、分散立地などをもっと真剣に議論する、つまり、日本の原子力の未来に新たな方向性を示すことではないか。将来の人材育成、技術力の承継・確保を考えれば、これらの観点は必須である。

茨城県に位置する国内初かつ唯一の高温工学試験研究炉〈HTTR〉 (THE MAINICHI NEWSPAPERS/AFLO)

 このままでは学問としても、技術としても、日本の原子力は立ち枯れになる。若い研究者や学生が夢と希望を持てるような状況を一日も早く作らねばならない。もちろん、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどあらゆるエネルギー(高効率化し、低炭素化した石炭火力発電をも含め)との共存共栄関係の構築を目指して、弾力的に対処すべきだ。原子力だけでやっていけるというのは幻想だろう。

「大戦略」を描け

 結論としては、繰り返しになるが、まず再エネ、原子力のメリット・デメリットを国民に偽りなく提示し、国のエネルギー戦略の「大戦略」(Grand Strategy)を設定する。そのうえで、「大戦略」から逆算して、当面なすべきことの実行に集中することだ。

 短期的にはまず、3・11後に安全が格段に強化された既存の原発はすみやかに再稼働させること。それによって、福島復興のための財源と共に、新型炉の開発や再エネ技術開発に必要な財源も確保できることを国民に分かり易く説明し、理解してもらうことが急務だ。これには政府任せではなく、電力会社自身の説明責任も欠かせない。昨今、「関電金品受領事件」など原発を巡る不祥事も見られたが、これでは国民の信頼を取り戻すことは困難だと指摘しておきたい。

 中長期には再エネ推進(太陽光・風力・地熱など)および「絵図面」に基づいた新たな原子力の研究開発などを同時並行で進めることだ。

 エネルギー安保と脱炭素化に向けた「総力戦」が必要な日本にとっては、どちらの技術にも“種蒔き”が必要であり、将来の技術の芽を摘まないということが重要である。それが再エネ・原子力の共存共栄(WIN-WIN)に向けた唯一の確かな道であろう。

 福島第一原発事故から間もなく10年。日本は重大な岐路に立たされている。今ここで踏ん張らねば、日本はエネルギー安全保障でも脱炭素でも躓いたまま、国力疲弊や国際社会からの信頼低下により早晩、二流国、どころか三流国に転落してしまうかもしれないと危惧するのは筆者だけだろうか。

 そうならないためにも、今こそ、大胆な発想の転換が必要だ。次期エネルギー基本計画では是非ともその方向性をしっかり打ち出してもらいたい。

資源小国・日本の電源構成を考える上では「大戦略」は欠かせない  (出所:一般財団法人 日本原子力文化財団) 写真を拡大

  
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