デジタルネイティブの若者
ということは、香港の若者はこれからも自由を求めるのならば政府と対峙するしかない。逃亡犯条例改正案では秘匿性の高いメッセージアプリの「テレグラム」が話題を呼んだが、今は「Signal」というアプリが使われ始めている。「Black Lives Matter」でアメリカで急速に広がったことでも知られているが、通信内容がエンドツーエンドで暗号化されるため非常に高いセキュリティレベルが確保されるほか、自分のメッセージが消える時間を自由に設定できるようになっているからだ。しかも、世界で最も使われているメッセージアプリ「WhatsApp」よりも使いやすい。
デモの中心であった香港の若者はテジタルネイティブでもある「ジェネレーションZ」。「あつまれ どうぶつの森」は香港でも政治利用され、任天堂は規約を設けたが、これはデジタルネイティブならではの発想力が生みだした。
中国では「上に政策あれば下に対策あり」という言葉があるが、香港の若者はデジタルという武器を使って、筆者のようなガラケーを知っている世代では想像がつかない形で新しい抗議活動の方法を生みだす気がしてならない。
香港政府はイメージ改善に必至
香港政府は、従来の金融、物流のハブという都市機能で世界とのつながりながらで生きていくのではなく、中国と一蓮托生で生きていくしかないと決心したのだろう。2021年1月6日、民主派の前議員ら53人が一斉に逮捕されたが、これは2020年7月に立法会に向けて候補者を絞る予備選を実施したことが国安法違反に問われた。登録有権者の約13%にあたる61万人が参加したが、香港政府は民意を意に介さないという意思表示をしたとも言える。また、対外的な香港のイメージが悪化しているのは香港政府も自覚している。
それらの打開策が、広東・香港・マカオにまたがる「大湾区(グレーターベイエリア)」構想だ。これだけでも1つのコラムが書けるので詳細は割愛するが、2008年ごろから構想が始まり17年の全人代で国家戦略となった。この地域の人口は6900万人という巨大市場だ。2020年11月25日に発表された林鄭長官の施政方針演説でも「大湾区」を活用して香港を発展させていく方向性がより強化された。大湾区が新しい香港となるかと言われれば、それはまた別の話だが「香港は依然として魅力的な経済都市ですよ」…とイメージの改善に必至だ。
将来は中国の1都市になると思われていたが、中国の1都市としてはイメージが悪いので「開発独裁」のシンガポールを狙っている感じを受ける。それならば外国もまだ受け入れやすいだろうという魂胆だろう。
日々の生活、仕事、コロナウイルスに国安法が重なって、処理しきれない
ジャーナリストとして香港にいると、昨日は政治、今日は新型コロナ、明日は新型コロナ、明後日は政治…実際はもう少し異なるがこの2つの取材を行ったり来たりしている感じだ。香港政府は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験したノウハウが蓄積されており、良く言えば柔軟に、悪く言えば頻繁に感染症対策を変える。
日本はこれから罰則規定を盛り込んだ法制化に取り組むようだが、
香港の中国化の速さは、例えば「2倍速で進んでいるな」というのは、多くの香港市民が実感しているが、現実で起こっている事は、3倍速、4倍速で進んでいる。中国政府は国内では物事を隠す傾向にあるが、今の香港は報道の自由の危機があるとはいえ、これまでの土壌を生かして、政策、逮捕、愛国心…何かをどんどん発信する。情報の嵐で香港人が消化に手間取っているうち中国化進めている印象だ。今後もこれが継続され「中国化が進んでいるのは頭ではわかっていたけど、気付けば思った以上に中国化していた」という風になるのだろう。
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